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英国がEU離脱したがっている件(ブレグジット)について分かりやすく解説

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最近、英国がEUを離脱したがっている(=Brexit:ブレグジット)けどなんかうまくいかない、というニュースがちらほら流れている。

英国の欧州連合(EU)離脱問題で、同国下院は21日、離脱に必要な関連法案の審議手続きに入った。これに先立ち、ジョンソン首相は、いったん先送りが決まったEUとの離脱協定案の採決を優先して行うよう下院に要請したが、議会日程の調整権限を持つバーカウ下院議長は、要請を受け入れれば「議会は無秩序なことになる」として採決の実施を認めなかった。議事進行をめぐる政権と下院の空転が続いている。

https://www.sankei.com/world/news/191022/wor1910220001-n1.html

そういえば2~3年くらい前に英国がEU離脱を宣言していたような気がするけど、結局あれはどうなったのか?そもそもなぜ離脱したいのか、離脱したがっている割にはなぜうまく行っていないのか?

これらの動きについて自分なりに整理してみた。タイトルに「分かりやすく解説」と書いているが、読者にとってわかりやすかどうかは知らない。また、なるべく信頼できる情報をもとに整理はしているが、わかりやすさの重視や、自身の知識不足により誤った記述があるかもしれないのは御了承。

前提知識

そもそもEUとは

今更そんな言われなくても知ってるわいwwと思うが、一応この記事を読むにあたって抑えてほしいポイントをもとに整理しているので、ぜひ一読してほしい。

EUの成り立ち

発端は第一次および第二次世界大戦である。両方の戦争にて多くの人命が失われ、人類史において最も悲惨な出来事となってしまった。

そんな中、戦争を二度と起こさないようにヨーロッパ内でまとまろうと、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立した。これは名前の通り石炭や鉄鉱をみんなで管理しましょうということなのだが、要はこうすることで兵器製造の元になる資源を共同でコントロールし、各国の対立の発生を防ごう、という試みである。

そこから石炭鉄鋼だけではなく経済全般でまとまろうとする中で、欧州経済共同体(EEC)→欧州共同体(EC)という流れで徐々に規模が大きくなっていく。その後、経済だけの繋がりではなく、政治的にもまとまっていこうということで、欧州連合、いわゆるEUの発足に至る。

ここで、イギリスはこのヨーロッパの共同体の歴史において、設立当初からの加盟国ではなく、ECが発足してからの加盟であった。つまり、もともと戦勝国であるイギリスからすれば「戦争を二度と起こさないように!」という理念に共感しているわけではなく、経済的な利点を求めての加盟がきっかけなのである。そこから、政治的にまとまろう!ということでEUができたところで、イギリスとしては「別にそこまでしなくていいんだけど…」という状態なのだ。

シェンゲン協定

EUを語る上で知っておきたいのがシェンゲン協定である。名前はあまり馴染みが無いかもしれないが、内容は難しくなく、「シェンゲン協定を結んでいる国同士であれば、パスポート無しで自由に移動してOK」という協定である。ただし、注意点として、EU加盟国すべてがシェンゲン協定を結んでいるわけではない。イギリスが最たる例で、EUに加盟しておきながらシェンゲン協定を結んでいないので、EU加盟国からでもイギリスへの入国にはパスポートが必要となる。さきほど述べた、イギリスとしては「別にそこまでしなくていいんだけど…」というイギリス独自路線の1つの例であろう。

統一通貨ユーロ

さすがにユーロそのものを知らない人はいないと思うが、EU加盟国であっても、ユーロを自国通貨とするかは強制されない。事実、イギリスの自国通貨はユーロではなくポンド(スターリング・ポンド)である。これも結局はイギリス独自路線の1つの例である。

ただし、実際ポンドの影響力は現代においてもかなり強く、基軸通貨としての役割は米ドルに譲っているものの、依然として世界における主要通貨であることには変わりない。この期に及んで、ユーロという通貨に頼らずともイギリスはやっていけるという自負があるのだ。 

英国がEU離脱したい理由

英国がEUから離脱従っているのは以下の大きく3つの理由があると言われる。

  1. 拠出金負担問題
  2. 移民増加問題
  3. EU法制定問題

これらについて説明する。  

1.拠出金負担問題

 EUを運営していく中で、EU加盟国は一定の金額をEUに収めていかねばならないのだが、この金額負担について英国は全体の1割ほどを占めており、EU加盟国の中で4番目に位置する。しかし、その拠出金はEU全体の運営で使われるため、必ずしも英国の都合の良い使われ方をするとは限らない。特にここ最近では東欧諸国が参加したことで、インフラ設備などが整っていないそれらの地域へ分配が傾むいてきたのである。

そのため、「わざわざEUに拠出金払わないで、これを自国に回せばもっといろんな設備を充実できるんじゃね?」という意見が台頭した。もともとEUの中でも独自路線でやりたい中で、多くの拠出金を負担してまでEUに加盟し続ける意味が薄れてきてしまったのである。 

2.移民増加問題

 現在EU加盟国は28カ国。その中にはイギリスやドイツ、フランスといった先進国だけではなく、決して経済的には豊かとは言えない国(主に東欧諸国)も含まれている。これらの国がEUに加盟したことで、これらの移民が先述のシェンゲン協定によりヨーロッパを自由に移動できるようになった。確かにイギリス自体はシェンゲン協定を結んでいないので入国審査が必要だが、そこに至るまでは陸続きで何不自由なく移動ができてしまうのである。移民側からすれば、同じ仕事してもイギリスのほうが稼げて社会保障も充実しているとなれば、そりゃ自国から逃げるわな。

実際どんだけ増加しているの?というグラフについては以下資料を参照。グラフがあって分かりやすい。
https://www.dir.co.jp/report/research/economics/japan/20141118_009143.pdf

で、移民が増えることで、元々いた自国民にとって不利益を被る機会が増えてきてしまった。例えば、それまでの働き口を移民に取られてしまったり、病院に行っても移民の人がいっぱいいるから全然順番が回ってこないなど、経済・生活保障・行政サービスといった分野での影響が顕在化してきたのである。(※これはアメリカでも同じ問題を抱えている。トランプが「メキシコに壁を作って不法移民をブロックする!」と言って盛り上がっていたのが懐かしい。)

3.EU法制定問題

これはどういうことかというと、まず、EU法といって、要はEU加盟国が従うべき法律があるのだが、当然これはEU加盟国全般に対しての法律となり、しかも自国の法律より強い。そのため、必ずしも自国にとって都合良いものとは限らない。それどころか「なんやねん」と首を傾げたくなるような法律も存在する。「バナナを販売する際には1房4本以上無いとだめ」とか。

そんな中、経済的利点を求めて加盟したイギリスからしてみれば、自国にとって不利益な法律が作られてしまったり、逆に必要な法律を作るにしてもEU加盟国との調整の上で整備していかなければならないという融通の効かなさは、とても歯がゆいのである。

また、これらの法を整備していくEUのトップ層たちは当然EU各国から選ばれていくわけだが、それはつまり自国の選挙によって選ばれたトップでは無いのである。なので、ただでさえ自国にとって有用ではない法律が存在するのに加えてそれが他国の赤の他人が決めたものに従わなければならないという理不尽さが加算されるのである。 

英国がなかなかEU離脱できない理由

 ここまでくればもうイギリスはEU離脱するしかないやん!と思っているかもしれない。実際、2016年に行われたイギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票により、離脱支持が上回ったことで、英国がEUからの脱退が決まった。

ところがどっこい、話がここでは終わらない。EUから脱退することは決まったが、脱退した後どうするかが決まらずに苦戦しているのが今の状況である。例えば「関税はこの程度にしておきましょ」とか「ある程度移動の自由は残しておきましょ」というように、離脱後もスムーズに仕事・生活が送れるよう色々決めていきたいのだが、これらがうまくまとまらず、結果的にイギリス議会での承認が得られずEU離脱に至れないのである。以下、主にどのような理由で合意形成ができないのかを記載する。

北アイルランドの問題

まず、イギリスの地図を見てほしい。改めて説明すると、イギリスというのはそれだけの単一国家ではなく、4つの国から構成される連合国家である。(→イギリスの正式名称がグレートブリテン及び北アイルランド連合王国であることはご存知であろう)

United Kingdom labelled map7 vector.svg
Source: File:British Isles all.svg by Cnbrb File:United Kingdom countries.svg by Rob984 Derived work: Offnfopt - United Kingdom countries.svg, CC 表示-継承 4.0, リンク

 ここで、北アイルランドおよびアイルランドという国自体が馴染み薄いと思うので簡単におさらいする。アイルランド島はイギリスを構成する2つの島のうちの左の方を指し、アイルランドとイギリスは別の国である。そのため、陸続きではあるがアイルランド北アイルランドも別の国という扱いになる。

そして、アイルランドEU加盟国、イギリスもEU加盟国ということで、シェンゲン協定により、アイルランド北アイルランドの交通は自由に行き来が可能となる。さきほど「イギリスはシェンゲン協定を結んでいない」という話をしたが、実は正確な言い方ではなく、「イギリスとアイルランド間についてはシェンゲン協定結びま~すw」という自国の利益につながる極一部についてだけシェンゲン協定を利用しているという状態なのである。

ここで、イギリスがEUを離脱するとどうなるか。

シェンゲン協定から外れるので、陸続きであるアイルランド北アイルランドの行き来であっても、その都度パスポートチェックなどの入出国審査を受けなければならない。当然そのための関所を設けたり、審査官を配置する必要があるのだが、かつてはこの地は元々一体の地域としていた歴史があるため、国境を行き来できる道路が多々存在する。それらに対してすべて関所を設けるのはコストがかかりすぎる(※当然、それらを設置するにあたっての資金源は税金!)し、このような入出国審査ができることで渋滞が発生したり、気軽に両国を移動ができなくなることで物流に大きな制限が発生する恐れがある。

 また、関税同盟といって、EU内部であれば輸出入に関わらず関税が免除されるのだが、EU離脱をすれば当然イギリス⇔北アイルランド間にて関税が発生することとなる。これもまた各関所でのチェックが生じたり、自由な貿易が妨げられ、結果経済の不活性化が懸念される。

もちろん、EU離脱したからといっていきなり関所を設けたり、関税が発生させるのではなく、段階的にだったり、期限付きだったりすることで妥協案に落とし込みたいのだが、その調整がうまくいっていないのが離脱を妨げている理由なのである。

で、このまま決まらずに期限を迎えるとなにが起こるか、それが「合意なき離脱」である。「イギリスとしてこういう取り決めでいきたいです~」という決定がEU間と合意されることで、ようやく関税だの人の移動だのの妥協案が正式なものとなる。が、このままイギリス内で決まらない状態で離脱を迎えてしまうと、妥協案無しにいきなりイギリスだけEU放り出される形になってしまうのだ。そうなると国際法に基づいた運用をしないといけない。さきほど記載した「全部関所を設ける」とか「輸出入で関税が発生する」とかやっていかないといけないわけだが、いきなり放り出された状態では運営が回るはずもないので大混乱必至。もちろん影響をくらうのはイギリスだけではなく、イギリスと貿易関係のある国全部である。要は全世界である。そのため、合意なき離脱だけはなんとしても避けなければならない。

その他にも、スコットランドイングランドの関係や、実はロンドンなどの大都市部においてはEU離脱反対派(=残留派)が多い等、色々書きたいことはあるが、このあたりにとどめておく。興味ある人は別途参考文献を読んでほしい。

さて、このEU離脱の決定は2019年10月31日が期限となっているが10月中旬を過ぎてもまだ決まっていない。合意なき離脱だけは免れたいはずなので、離脱期限を延長してずるずると引き伸ばしていくのか、はたまたやっぱり離脱はやめるという話になるのか、行く末が非常に気になる問題だ。

 

参考文献  
英EU離脱の衝撃 日経プレミアシリーズ

英EU離脱の衝撃 日経プレミアシリーズ

 

  

 

昭和46年 年次世界経済報告 経済企画庁

 https://www5.cao.go.jp/keizai3/sekaikeizaiwp/wp-we71/wp-we71-00404.html

 

 1からわかる「ブレグジット」(1)なぜEUから離脱したいの?

https://www3.nhk.or.jp/news/special/news_seminar/jiji/jiji9/