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トルコがシリア北東部のクルド人勢力を攻撃している件について分かりやすく解説

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昨今、トルコがシリア北東部のクルド人勢力を攻撃しているという、物騒なニュースが流れている。

2019年10月9日、エルドアン大統領は、トルコ軍がシリア北東部に侵攻を開始したと発表した。同軍事作戦は、「平和の泉」と名付けられ、トルコ政府がテロ組織と認定する、クルディスタン労働者党PKK)とその派生組織で、シリア北部に展開するクルド人民防衛隊(YPG)および、「イスラーム国」の残党勢力を中心としたシリア民主軍(SDF)の拠点に対し実施される。

 https://www.meij.or.jp/kawara/2019_114.html

ただでさえ中東のよく分からない問題であるのに、PKKだのYPGだのSDFだの聞き慣れない単語が多々出てきてますます混乱を招く。
これらの動きについて自分なりに整理してみた。タイトルに「分かりやすく解説」と書いているが、読者にとってわかりやすかどうかは知らない。また、なるべく信頼できる情報をもとに整理はしているが、わかりやすさの重視や、自身の知識不足により誤った記述があるかもしれないのは御了承。

前提知識

クルド人に対する基礎知識

まず、クルド人とはなんぞやについて、ざっくりと解説する。

クルド人は国家を持たない民族で、その人口は2500~3000万人。クルド語を話し、主にイスラム教を信仰し、国家を持たない民族集団では世界最大規模を誇る。

さて、日本人であれば日本という国家があり、朝鮮人であれば韓国ないしは北朝鮮という国家がある、というように、XX人(民族)に対してその国がある、というのは当たり前のように思えるが、世界規模で見れば国を持たない民族自体は珍しいことではない。

例えばお隣中国だと、大多数は漢民族で形成されているが、満州族とか、ナシ族といった少数民族が各地方に点在している。そういった少数民族が中国というでかい船に乗って生活を送り、場合によっては自治区という形で、国レベルとまでは言わずともある程度は自治が委ねられていたりする。

ところが、人口2500~3000万人レベルの人口規模ながら国を形成していない民族というのは、世界でもクルド人だけである。ちなみに2500万人~3000万人という規模はオーストラリアやベネズエラといった国と同等である。もちろん、これより少ない人口規模の国というのはたくさん存在する。(https://www.globalnote.jp/post-1555.html)

なぜこれまでの規模でありながら国家が形成されていないのか、それを知るには歴史を知る必要がある。

 

サイクス・ピコ協定

アフリカの地図を見たことがある人、そしてアフリカの国境が不自然なまでに直線的であることに気づいた人、そしてその国境がイギリスやフランスといった列強諸国が植民地支配にあたって自分たちの都合で切り分けたものであるということを知っている人は多いだろう。

ここで、中東エリアの地図を見てほしい。

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http://www.freemap.jp/

注目してほしいのはシリア・イラク・ヨルダンあたり。直線的な国境であることに気がつくであろう。隣のアフリカの国々がでか過ぎて見落としてしまいがちなのだが、この中東エリアも西欧の列強国(イギリス・フランス)によって切り分けられた地域なのである。

そもそも、かつての中東エリアはこんなに国が別れていたのではなく、このあたりは名前は聞いたことがあるであろう、オスマン帝国(オスマン朝)という巨大な国であった。

参考までに、このオスマン帝国の領土が以下の図。Wikipediaから転載。

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そして1914年に第一次世界大戦が始まる。第一次世界大戦の詳細な話はここでは省略するが、ざっくり言うと、ドイツ・オスマン帝国を始めとする同盟国 VS ロシア・イギリス・フランスを始めとする連合国の戦いであり、ここにおいて同盟国ならびにオスマン帝国は敗戦国となってしまう。

で、諸悪の根源とも言われているのが、サイクス・ピコ協定。敗戦したオスマン帝国の領土を解体して、どこの土地をどの国が植民地(および委任統治)とするかを切り分けた協定である。イギリス人のサイクスさんとフランス人のピコさんによって制定された。このあたりの話は三枚舌外交とか、それによるパレスチナ問題とか、他にも色々書きたいことはあるけど、クルド人問題にはあまり関係無いので省略。

 このサイクスピコ協定に基づき国土を分割して、それぞれ別の国として独立させていったわけだが、この分割の仕方がまずかった。クルド人が住むエリア(クルディスタンといったりもする)をトルコ・シリア・イラク・イランといったエリアでバラバラになってしまう分割をしてしまった。さっきの中東の白地図を拡大して、ざっくり記すと以下の赤丸箇所のエリアが、クルド人が多く住むエリア。

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この分割によって、どういう結果となったか。先述の通りクルド人は人口2500~3000万人レベルの大民族であるのだが、それぞれの国での割合となると、トルコにおいては少数派、シリアにおいても少数派、イラクにおいても少数派、イランにおいても少数派というどこの国に行っても少数民族の扱いとなってしまうのであった。

クルド人独立運動

クルド人の悲願

というわけで、どの国であっても少数派として扱われるので、「クルド人の国」を作ることがなかなかできない。「クルド人の国」としてクルド人の領土を持ち、クルド語での教育を行い、国旗があり国歌があり憲法があり文化があり歴史があり…という国家を形成するのはクルド人にとっての切実な願いである。そのため、これまでも、独立を目指すための運動を何度もしてきている。 

トルコのクルド人に対する扱い

さて、話をトルコに移そう。トルコはオスマン帝国の解体に伴い、トルコ革命により独立し、その後、ムスタファ・ケマル・アタテュルクという人物が強烈なリーダーシップを取ってトルコの近代化を進めていった。かつてアラビア語で表記していたトルコ語をアルファベットにするなど、かなり大胆な施策を推進している。なお、この時、トルコ国内での識字率は数%まで下がったと言われている。ほんとうかどうかは知らん。

そんな中ギリシャ人の住民交換やアルメニア人の虐殺といった民族浄化も行われていった。なにをしたかと言うと、トルコは「トルコ人」の国とすべく、トルコ人ではない他の民族を他国に強制移住させたり、虐殺したりしていったのである。このあたりの話も深く調べると面白いのだが、本題から脱線してしまうのでここでは省略する。

そしてトルコの領土内に住むクルド人に対して、トルコはどういう見解を示したかというと、クルド人なんて民族はいません。あれは山岳トルコ人です!」というスタンスであった。つまり、"クルド人"というアイデンティティを認めず、「トルコ人」の括りとしたわけである。 

そこからトルコ人として一色に染めたいトルコ政府と、独立したいクルド人とで深い溝ができるのである。

クルド人政党発足

そうして独立に向けてクルド人を主体とした政党やそれに伴う軍隊組織が発足していく。以下に主なものを列挙する。

何が何だか分からない。これ以外にもKRGとかKDPとかPUKなどなど似たようなアルファベット三文字組織がいるため混乱必至である。以下、わかりやすさを重視するため、アルファベット三文字のみの記載は極力避けるようにする。  

トルコがシリア北東部のクルド人勢力を攻撃している件

ここまで来てようやく本題だ。

今回トルコが攻撃をしたというのは、YPG:クルド人民防衛隊である。この組織はPYD:民主統一党(シリアのクルド政党)が抱える軍部組織である。つまり、トルコ自国内のクルド政党ではなく、他国であるシリアのクルド政党に対する攻撃である。この勢力が及んでいる地域を青色にした。

 

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そう、この青色部分がタイトルにもある「シリア北東部のクルド人勢力」の範囲である。

トルコが恐れていること

なぜトルコは攻撃に踏み切ったのか。もとからトルコは「シリアのクルド勢力の独立運動が隆盛することで、それに誘発されてトルコのクルド勢力の独立運動が活発化すること」を恐れているためである。もしそうなってしまうとトルコ国内は混乱必至、現政権の崩壊や下手すると内戦が勃発してしまうからだ。その上、トルコ国内のクルド勢力についてはトルコの裁量である程度コントロールできるが、他国であるシリアのクルド勢力となるとコントロールの範囲外。そのため、YPG:クルド人民防衛隊による"おいた"が起きないよう、牽制をしたいのである。

「んな、他国での独立運動が本国まで波及なんてするんかい?」と思うかもしれないが、昔の話で言えばイラン革命、ここ最近で言えばアラブの春により、政治的運動がなんらかの出来事をきっかけに他地域に一気に広がることは何も珍しいことではない。むしろ、先述の通りこのあたりの国境はサイクス・ピコ協定により人工的にひかれたものなので、もはや国境にこだわる意味など無いのである。なお、イラン革命とかアラブの春がどんな出来事であるかは話が逸脱するのでここでは割愛する。

YPG:人民防衛隊の発足

そんなトルコが標的にしているYPG:クルド人民防衛隊というのは、昔々から存在していたわけではなく、アラブの春やそれに続くシリア内戦に伴い隆盛した。つまりは、「シリアが内戦でゴタゴタしているうちに、クルド人自治区を作っちまおう!」というノリで勢力を伸ばしてきたのである。

で、話がややこしくなるのだが、このYPG:クルド人民防衛隊の構成員はクルド人とは限らない。外国からの雇われ傭兵もいっぱいいる組織であり、かつてイスラム国(IS)が世界中から戦力を雇ったように、このYPG:クルド人民防衛隊も多くの傭兵を雇った軍事組織なのである。

そのため、このニュースにおいて「トルコはクルド人攻撃している」と読むのは間違いである。あくまで「クルド人"勢力"」に対する攻撃であり、民族に対する虐殺行為(民族浄化)ではないことを認識してほしい。

そして停戦合意

そんな中、10月18日、ひとまず5日間の停戦がトルコとアメリカ間で合意された。この5日間のうちにYPG:クルド人民防衛隊が国境付近から撤退することで、トルコ側の作戦が終了(=終戦)とすることとした。ここで、「なんでアメリカが出てくるんや?」について簡単に説明する。

まず、前提として、アメリカという国は世界をリードする国家として世界警察としての役割を担っている自負があり、特にその中でも命題としているのが「テロの殲滅」である。そのため、テロ組織に対して戦うのはアメリカとしての使命である。

そこで、ここ数年で一番ホットだったテロ組織といえばイスラム国(IS)だったわけだが、YPG:クルド人民防衛隊イスラム国(IS)と敵対する組織でもあったクルド人自治したい地域とイスラム国(IS)が統治したい地域がぶつかりあうため、競合は免れないのである。これにより、アメリカはイスラム国(IS)を討伐するにあたって、YPG:クルド人民防衛隊を支援していったのである。

この前提の元、トルコは「YPG:クルド人民防衛隊の"おいた"がすぎるとうち困っちゃうねん。あんたらが支援なんてするからこんな暴れるねん。なんとかして。」という交渉を元に、アメリカは「わかった。そしたら彼らをおたくの国境付近から撤退させますわ。かんにんしてや~。」という合意に至ったのである。本当にこんな言い方をしたのかは不明。

最後に

というわけで一連の流れを色々整理してみた。他にも色々書きたいことはあるが、かなり膨大かつ複雑化してしまうのと、自身の理解も追いついていないのでこのあたりにとどめておく。

なお、参考文献は以下の通り。 

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)