FP1級の応用問題のために整理してみる。
単に譲渡するだけであれば大したこと無いが、不動産の譲渡はあれこれ控除する制度があるため、それらを加味して整理する。
一般社団法人金融財政事情研究会ファイナンシャルプランニング過去問題利用許諾済
2021月7月29日許諾番号2107K000003号
譲渡所得の基本的な考え方
個人が不動産を譲渡して所得が生じた場合には、譲渡所得として申告分離課税を行う。譲渡したときの1月1日における所有期間が5年以下の場合は短期譲渡所得、5年超のときは長期譲渡所得としてそれぞれ異なる税率が適用される。
譲渡所得の基本的な計算式は以下の通り。
譲渡所得=総収入金額-(取得費+譲渡費用) ・・・(A)
取得費:売った土地や建物の購入代金、建築代金、購入手数料のほか設備費や改良費など。不明な場合は収入金額の5%を取得費とすることができる。
譲渡費用:土地や建物を売るために支払った仲介手数料、印税費など。
また、譲渡所得による税額は以下のように計算を行う。
譲渡所得の税額=譲渡所得金額*税率
短期譲渡所得の場合は所得税が30%、住民税が9%
長期譲渡所得の場合は所得税が15%、住民税が5%となる。
居住用財産を譲渡するときの特例
これだけで済むのであれば大した話ではないのだが、話が複雑になるのはこれに対して様々な控除を受けられる特例が存在するからである。主に以下のような特例が存在する。
譲渡益が発生した場合
1:居住用財産の3000万円の特別控除
2:居住用財産の軽減税率の特例
3:特定居住用財産の買い換えの特例
譲渡損が発生した場合
4:居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
5:特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
1~5ともに譲渡先が配偶者や直系親族などの場合には適用不可である。
また、1と2の組み合わせは重複しての適用が可能となっている。
以下、それぞれについて記載をする。
1.居住用財産の3000万円の特別控除
マイホーム(居住用財産)を売ったときに、所有期間の長短に関係なく譲渡所得から最高3,000万円まで控除ができる特例となる。つまり、3,000万円以上の譲渡益がでなければ、この控除で譲渡所得は0円とすることができる。よほど儲けが出ない限りは譲渡税は取られないということであろう。
主な適用条件は以下の通りとなる。
(1) 住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(2) 売った年の前年及び前々年に特例3~5を受けていないこと。
2.居住用財産の軽減税率の特例
マイホーム(居住用財産)を売って、一定の要件に当てはまるときは、長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも低い税率で計算する軽減税率の特例を受けることができる。長期譲渡所得に対する軽減税率なので、所有期間が10年以上あることが条件。
課税長期譲渡所得金額(上記A式の譲渡所得から、居住用財産の3000万円の控除をした残りの金額)について、6000万円を境に税率が変わる。具体的には以下の通り。(所得税は復興税込みの税率)
例えば、15年住んでいた家を売却し、譲渡収入金額2億円、取得費7000万円、譲渡費用500万円が発生した場合、以下のような計算となる。なお、「1.居住用財産の3000万円の特別控除」も合わせて適用する。
譲渡益=譲渡収入-取得費-譲渡費用-特別控除(3,000万円)=9,500万円 より
所得税:6000万円*10.21%+3500万円*15.315%=11,486,250円
住民税:6000万円*4%+3500万円*5%=4,150,000円
No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁
3.特定居住用財産の買い換えの特例
ややこしいのがこれである。特定のマイホーム(居住用財産)を、令和3年12月31日までに売って、代わりのマイホームに買い換えたときは、一定の要件のもと、譲渡益に対する課税を将来に繰り延べることができる。
例えば、1,000万円で購入したマイホームを5,000万円で売却し、7,000万円のマイホームに買い換えた場合には、通常の場合、4,000万円の譲渡益が課税対象となるが、特例の適用を受けた場合、売却した年分で譲渡益への課税は行われず、買い換えたマイホームを将来譲渡したときまで譲渡益に対する課税が繰り延べられる。繰り延べられるだけで、非課税になるわけではない。
国税庁のHPの図がわかりやすいので、それをもとに図を修正。
上記の図でいうと、実際の譲渡益1,000万円に特例の適用を受けて課税が繰り延べられていた4,000万円の譲渡益(課税繰延べ益)を加えた5,000万円が、譲渡益として課税される。(つまり、譲渡所得=8000万円-1000万円(購入時)-2000万円(買い換え時)=5000万円となる。)
主な適用条件は以下の通り。
(1)譲渡契約が、家屋を取り壊した日から1年以内に締結され、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること。
(2)売った年、その前年及び前々年に特例1~2を受けていないこと。
(3)売却代金が1億円以下であること。
(4)売った人の居住期間が10年以上で、かつ、売った年の1月1日において売った家屋やその敷地の所有期間が共に10年を超えるものであること。
(5)買い換える建物の床面積が50平方メートル以上のものであり、買い換える土地の面積が500平方メートル以下のものであること。
で、上記図のよう買い換え対象が売却1の譲渡収入より高ければ話はわかりやすいのだが、問題は売却1の譲渡収入より買い換え対象の価格が低い場合である。以下の例として、当初購入費(取得費+譲渡費用)が1000万円、それを5000万円で売却し、3000万円の住宅に買い換えた場合を考える。
このときは点線部分の2000万円が収入として手元に残ることになるため、この部分を長期譲渡所得として課税対象とする。このときの取得費+譲渡費用については、購入時の1000万円をそのまま使用するのではなく、そのうちの課税される2000万円部分を対象として控除する。具体的には以下の通り。
課税長期譲渡所得=2000万円-1000万円*2000万円/5000万円=1600万円
下線箇所が、取得費+譲渡費用の1000万円について、課税される2000万円部分に按分している箇所である。
これで求めた課税所得に対する課税額は、この特例を適用すると6000万円以下であろうと軽減税率は適用できないので、所得税と住民税合わせて、1600万円*20.315%=325.04万円となる。
そして、買い換え対象となった3000万円部分について、ここに対する取得費+譲渡費用は同様の考えで購入時の1000万円のうち3000万円部分を対象とするので、以下となる。
買い換え資産に対する取得費+譲渡費用=1000万円*3000万円/5000万円=600万円
そのため、この3000万円で買い換えた住宅をその後4000万円で売った場合、上記に合わせて、買換資産そのものの3000万円が取得費となるので、譲渡所得としては以下のようになる。
譲渡所得=4000万円-(600万円+3000万円)=400万円
No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁
4.居住用財産の買い換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
5番の特例と似ていて紛らわしいが、これは「買い換え」に対する特例である。
買い換えにより、旧居宅の譲渡による損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができる。さらに、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内に繰り越して控除(繰越控除)することができるという特例である。
主な適用条件は以下の通り。
(1)住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。
(2)譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える資産であること。※こちらは10年ではない!
(3)家屋の床面積が50平方メートル以上であるものを取得すること。
(4)買換資産について償還期間10年以上の住宅ローンを有すること。
なお、合計所得金額が3,000万円を超える年がある場合、その年には適用ができない。
No.3370 マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
5.特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
住宅ローンのあるマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して損失(譲渡損失)が生じたときは、一定の要件を満たすものに限り、その譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から控除(損益通算)することができる。さらに損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年間繰り越して控除(繰越控除)することができる。
主な適用条件は以下の通り。買い換えかただの譲渡かの違いであるため、基本的には4の特例と同等である。
(1)住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡すること。(2)譲渡の年の1月1日における所有期間が5年を超える資産であること。※こちらも10年ではない!
(3)譲渡したマイホームに係る償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること。
(4)マイホームの譲渡価額が上記(3)の住宅ローンの残高を下回っていること。
これも特例4と同様に、合計所得金額が3,000万円を超える年がある場合、その年には適用ができない。
No.3390 住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)|国税庁
相続における特例
相続税の取得費加算の特例
名前の通り、相続税を取得費に加算ができる。これにより、(A)式における譲渡所得を低く抑え、最終的に節税へ繋げることができる。具体的には以下の通り。
式は一見ややこしいが、要は相続税について、相続税対象となる資産全体のうち譲渡した財産分だけに按分して、それを取得費に加算することができるということである。
主な適用条件は以下の通り。
1. 相続、遺贈、死因贈与により財産を取得した個人であること。
2. その財産を取得した人が相続税を納めていること。
3. 相続した財産を相続開始日から3年10ヶ月以内に譲渡していること
例であげると、収めた相続税が500万円、譲渡した不動産の課税評価額が1000万円、相続税の価格が5000万円、債務控除は無い場合、取得費に加算可能な額は
500万円*1000万円/(5000万円+0万円)=100万円
となる。
事業用資産に対する特例
特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例
名前が長くてややこしいが、ポイントは「事業用資産」と「買い換え」である。
・個人が、事業の用に供している特定の地域内にある土地建物等(譲渡資産)を譲渡
・一定期間内に特定の地域内にある土地建物等の特定の資産(買換資産)を取得
・その取得の日から1年以内にその買換資産を事業の用に供する
上記の場合、一定の要件のもと、譲渡益の一部に対する課税を将来に繰り延べることができる。(繰延なので、譲渡益が非課税となるわけではない。)また、買換資産が土地等であるときは、取得する土地等の面積が譲渡した土地等の面積の5倍までを対象とすることができる。
計算方法は以下の通り。
①収入金額:譲渡資産の譲渡価額-譲渡資産の譲渡価額と買換資産の取得価額の低い方×80%
②必要経費:(譲渡資産の取得費+譲渡費用)×収入金額/譲渡資産の譲渡価額
③譲渡所得:①-②
つまり、①においては、買い換え資産が譲渡資産より高いければ譲渡価額分に対して課税されるはずだが、それを0.8掛けして引く(結果的には0.2掛け)することで、その分の譲渡所得は繰り延べることができるということである。逆に買い換え資産が譲渡資産より安ければ、譲渡価額と買換資産の差額分が課税されるはずだが、これについても買換資産の取得価額を0.8掛けして引くことで、その分の譲渡所得を繰延べている。
そして②については、費用を収入金額分に応じて按分することで、繰り延べる部分については除外するようにしている。
例えば、2017年9月の応用試験でいうと、譲渡価額が1.2億円、譲渡費用が1500万円、取得価額が譲渡価額の5%(600万円)、買換資産の取得価額9000万円の場合、上記でいうと(2)のパターンに当てはまるため、
収入金額:譲渡価額-買換資産の取得価額×0.8=1.2億円-9000万円*0.8=4800万円
必要経費:(1500万円+600万円)×(4800万円/1.2億円)=840万円
譲渡所得:4800万円-840万円=3960万円
となる。