課税標準および損益通算について整理してみる。
概要
課税標準
課税標準とは、「税金を計算する際の算定基準」のこと。税金には所得税や法人税などさまざまな種類があるが、その多くが、課税標準に税率をかけて(課税標準×税率)、税額を計算する。例えば所得税の場合、課税標準は「所得」となる。
損益通算
各種所得金額の計算上生じた損失のうち一定のものについてのみ、一定の順序にしたがって、総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額等を計算する際に他の各種所得の金額から控除することができる。要は所得の赤字を他の所得の黒字から差し引いて、課税標準を抑えること。
所得の金額の計算上損失が生じた場合に、損益通算の対象となる所得は以下の通り。
(1) 不動産所得
(2) 事業所得
(3) 譲渡所得
(4) 山林所得
ただし、上記の所得であっても、以下のような場合には損益通算の対象とならない。
・生活に通常必要ではない資産(ゴルフ会員権、30万円以上の貴金属、別荘などの譲渡)に係る所得の金額の計算上生じた損失
・土地(土地の上に存する権利を含む。)を取得するために要した負債の利子に相当する部分の金額
・一定の居住用財産以外の土地建物等の譲渡所得の金額の計算上生じた損失
・申告分離課税を選択した上場株式等の損失。(※申告分離課税同士での損益通算を行う。申告分離課税と総合課税での損益通算ができない。)
損益通算の計算方法
所得の性質の似通った種類の所得グループにおいてまず損益通算して、次にその他の種類の所得に損益通算していく。
手順
1.所得を以下にグルーピング
A:不動産所得の損失と事業所得の損失
B:譲渡所得の損失
C:山林所得の損失
2.経常所得(利子所得、給与所得、不動産所得など経常的に発生する所得)と一時所得に分け、Aを経常所得、Bを一時所得と損益通算する。
3.2で控除しきれない分は相手をチェンジして損益通算する。つまり、Aを一時所得、Bを経常所得と損益通算する。
4.3でも控除しきれない分を、山林所得の金額から損益通算し、次に退職所得の金額から損益通算する。
5.最後の最後に山林所得の損益通算を、経常所得>譲渡所得>一時所得>退職所得の順番で行う。
グルーピングの考えは以下の図を参照。
引用元:損益通算とは|節税できる理由と必要な手続き|税理士検索freee
具体例1
以下の所得金額について損益通算をして課税標準を計算する。
・配当所得 ▲150,000円
・不動産所得 200,000円
・事業所得 ▲2,500,000円
・給与所得 1,250,000円
・総合譲渡所得(短期) 400,000円
・総合譲渡所得(長期) 1,800,000円
※土地建物・株式以外の譲渡所得は総合譲渡所得となる。
まず、Aのグループと経常所得を損益通算する。配当所得でマイナスがでているが、配当所得そのものは損益通算の対象外のため、以下となる。
不動産所得200,000円-事業所得2,500,000円+給与所得1,250,000円=▲1,050,000円
ここで控除しきれていないので、ここから一時所得と損益通算をする。対象となるのは総合譲渡所得で、これを短期→長期の順で控除していく。
総合譲渡所得(短期)400,000円-1,050,000円=▲650,000円
総合譲渡所得(長期)1,800,000円-650,000円=1,150,000円
以上より、損益通算後の所得は、総合譲渡所得(長期)の1,150,000円となる。
ここで、総合譲渡所得(長期)の場合はその1/2を課税標準とするため、課税標準は575,000円となる。
具体例2
FP1級の過去問より。以下の所得金額について損益通算をして課税標準を計算する。
・給与所得(勤務先からの給与)
収入金額:930万円
給与控除額:195万円・譲渡所得(上場株式の譲渡によるもの)
収入金額:200万円
取得費・譲渡費用:260万円・不動産所得(賃貸アパート経営によるもの)
収入金額:200万円
必要経費:300万円(そのうち土地の取得に伴う負債利子が40万円)・一時所得(生命保険の満期保険金の受取)
収入金額:1,080万円
収入を得るための支出:1,000万円
まず、それぞれの所得を求める。
・給与所得:930万円-195万円=735万円
・譲渡所得:200万円-260万円=▲60万円
・不動産所得:200万円-300万円=▲100万円
・一時所得:1,080万円-1,000万円-50万円(特別控除)=30万円
次に経常所得グループでの損益通算を行う。対象は不動産所得となるが、土地取得に伴う負債利子があるので、損益通算可能額は100万円分-40万円=60万円となる。ゆえに、経常所得グループは、これを給与所得と損益通算して以下となる。
給与所得735万円-不動産所得60万円=給与所得675万円
続いて、一時所得グループでは譲渡所得と一時所得が対象となるが、上場株式の譲渡は申告分離課税なので、他の所得との損益通算が行えない。したがって、一時所得グループでの所得総額は一時所得30万円となる。
以上より、所得総額は給与所得の675万円と一時所得の30万円となるが、一時所得は最終的に1/2とするため、課税標準は以下となる。
給与所得675万円+一時所得30万円*1/2=690万円