純資産会計について、事例IVで直接問われたことがある訳では無いが、これが会社利益や配当の考えと繋がっていく部分にもなるため、基礎的な考えを整理していく。
株式会社について
株式会社の最大の特徴は資金調達を株式によって行うことである。つまり、株式という証券を発行し、それを投資家に買ってもらうことで、会社を運営していく資金を収集する。投資家サイドとしては株式を保有することで大きく2つの権利を得ることができる。1つは利益に応じた配当を受け取る権利で、つまりはその収益を享受したいがためにわざわざお金を払って株式を買うわけである。もう1つはその会社のオーナーとなって経営に関与する権利である。これは、会社が変な経営をしたり赤字を垂れ流し続けていては配当を受け取ることができなくなるため、会社の方向性に対して意見を言える権利を保有することとなっている。とはいえ株主が逐一実際の経営をするところまではやってられないので、実際の日々の経営は取締役によって執行されることを前提とする。この、株主がオーナーとなり実際の経営は取締役が行うという関係性のことを、所有と経営の分離という。
株式発行時の扱いについて
株式を発行し、いざ資金が払い込まれた場合、その資金は純資産における資本金に計上することとなる。仮に1,000万円の払込があった場合の仕訳は以下の通りである。
当座預金 1,000万円|資本金 1,000万円
しかし、会社法においては払込金額の1/2までを資本金として処理することが認められる。つまり以下のような仕訳を切ることも可能である。
ではなぜわざわざ資本金ではなく資本準備金として処理したいのかというと、会社規模の定義として資本金の金額が条件に含まれているためである。
業種分類 | 中小企業基本法の定義 |
---|---|
製造業その他 | 資本金の額又は出資の総額が3億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が300人以下の会社及び個人 |
卸売業 | 資本金の額又は出資の総額が1億円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
小売業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が50人以下の会社及び個人 |
サービス業 | 資本金の額又は出資の総額が5千万円以下の会社又は 常時使用する従業員の数が100人以下の会社及び個人 |
つまり、資本金が肥大化しこの定義を超える金額の資本金を保有した場合は、その企業は大企業という扱いを受けてしまう。これにより、税務面での優遇措置や中小企業向けの各種補助金が受けられなくなってしまうわけである。そのため、基本的に企業としては必要以上に資本金を抱え込むことはしたくないのである。
当期利益の扱いについて
株式会社が会社を運営していき、決算のタイミングで一旦利益を確定させる。ここに至る細かい仕訳や経緯は省略するが、これによって発生した利益は純資産の増加(損なら減少)として計上する。
例えば、当期純利益が300万円であった場合の仕訳は以下の通りである。
損益 300万円|繰越利益剰余金 300万円
損益勘定において利益は貸方になるので、その貸方にある利益を繰越利益剰余金という勘定に振り替えるわけである。ということは逆に損失が発生した場合は以下の通りである。
繰越利益剰余金 300万円|損益 300万円
株主への配当はこの繰越利益剰余金を元手として配分していくこととなる。
なお、あくまでこれは利益としての計上なので、繰越利益剰余金という「キャッシュ」が増減しているわけではない。そのため純資産としては繰越利益剰余金があっても、株主に実際に配当を出すにあたっては現金が必要となり、そこはあくまで会計上の利益と財務上のキャッシュの違いとなっていくであろう。
剰余金の配当と処分について
一旦キャッシュは十分にある前提として、繰越利益剰余金から配当を出していくことになる。株主はこの配当を受け取る権利があるわけだが、といってもすべての利益を配当としてしまうと会社としての利益が残らず、会社の成長への道が閉ざされてしまうため配当は一定額までとして、別科目へ振り替える必要がある。特にこの一定額を振り替えることを剰余金の処分という。
剰余金の処分に当たっては、「利益準備金」とするか「任意積立金」とする必要がある。どちらも純資産科目であるが、利益準備金は会社法上で定められた積み立て強制分、任意積立金は会社独自として今後新しい設備を導入するため等に基づき積み立てる分である。
また、繰越利益剰余金を配当とするか、積み立てとするか、結局決まらず中ぶらりんのまま引き続き繰越利益剰余金としておくことも可能である。
そのため、例えば繰越利益剰余金が300万円、そのうち配当が100万円、利益準備金が50万円、別途積み立て金が80万円とした場合、以下のような仕訳となる。
繰越利益剰余金 230万円|未払配当金 100万円
|利益準備金 50万円
|別途積立金 80万円※残りの70万円は繰越利益剰余金のままのため、仕訳無し。
さて、利益準備金は会社法によって一定額の積み立てが強制されており、「資本準備金と利益準備金の合計額が資本金の4分の1に達するまで、配当金の10分の1を利益準備金として積み立てなければならない。」これに対する計算式としては以下の通りである。
そのため、例えば資本金1,000万円、資本準備金100万円、利益準備金50万円、別途積立金50万円、配当金200万円とした場合、式に当てはめると以下となる。
1:250万円-150万円=100万円
2:200万円*1/10=20万円
つまり、20万円を利益準備金として積み立てる必要があるため仕訳は以下の通りである。
繰越利益剰余金 270万円|未払配当金 200万円
|利益準備金 20万円
|別途積立金 50万円
これは教科書通りの計算の説明だが、噛み砕いて説明をすると、まずこの利益準備金の積み立ては基本的には2の配当金の10分の1で行う。つまり今回で言えば20万円を積み立てるのが基本路線である。で、このように毎年配当金の10分の1を積み立てていって、積み上がった資本準備金+利益準備金が資本金の4分の1に達するまでギリギリまでいったところで、最後の資本金の4分の1に達する分はその差額分だけを補填するイメージとなる。
なお、上記は配当を出すにあたって強制積み立てする前提のため、配当を出さず全て別途積立金にするとか、繰越利益剰余金のままにするとかであれば関係ない。
純資産科目整理
以上を踏まえた純資産科目に加え、良く使われるものを合わせると以下のようなものがある
- 資本金:会社設立時や増資時の新株発行にあたり、会社が株主より受けた出資額。
- 資本剰余金
- 利益剰余金
- 評価換算差額等
- その他有価証券評価差額金:長期保有目的の株式等にかかる評価差額
- 新株予約権:ストックオプションなど、株式を特定の価格で購入できる権利
- 非支配株主持分:子会社の資本のうち、親会社所有以外の部分