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近くて遠い国、北朝鮮について

日本から近くて遠い国、北朝鮮。飛行機で日本の首都東京から北朝鮮の首都平壌までは飛行機で2.5時間ほどで着くことが可能であり、東京~沖縄間が約3時間ほどで行けることを鑑みると、十分"近い"と言える距離であろう。

そしてその北朝鮮という国というと、拉致問題、独裁政治、超貧困、ミサイル開発といった、ネガティブなイメージが一般的には浸透しており、実際、このご時世では考えられないような生活を国民たちは強いられているのである。平穏な生活を送る我々も、生まれてくる緯度と経度が少し違っていれば、危うく北朝鮮にて奴隷のような生活を送ることになっていたかもしれない。物理的には近いのに、経済・政治・文化・思想、さまざまな面"で遠い"国である。

本記事では北朝鮮のさまざまな実情を整理して、より理解を深めていくことを目的とする。なお、主にネットから情報を収集しているが、閉鎖的な国である特性上、どこまでが正しい情報かはそもそもが不透明である上に、自身は専門家では無いので妥当性の緩さはご了承。あくまで自分の自己研鑽の一貫である。

1.北朝鮮の概要

1.1.北朝鮮の成り立ち

李氏朝鮮

当然のことだが「北朝鮮」という国は初めから存在していたわけではない。朝鮮半島の歴史を追っていくと、例えば高句麗百済新羅といった国に分かれていたりして、日本とも白村江の戦い等で関わりがあったわけであるが、遡るほどキリが無くなるので一気に話を進めて1800年代まで時代を進めたい。

その頃の朝鮮半島李氏朝鮮という統一王朝が統治していた。つまりこのときは高句麗とか新羅とかはすべて統一されて朝鮮半島で1つの王朝という状態であった。当然そこには北朝鮮・韓国というような南北の国に分かれているなんてことは無い。そしてこの王朝はかなり長く、1392年~1897年まで約500年続くこととなる。

この長命の李氏朝鮮が終わるのは日清戦争がきっかけとなる。日清戦争により日本が清に勝利し下関条約を結ぶわけだが、その中で清に朝鮮半島の独立を認めさせることを締結した。それまでは李氏朝鮮は清の属国として要は清の子分のような立場であったので、今後領土を拡大していきたい日本として朝鮮半島を狙うにあたり、清は邪魔な存在だったわけである。純粋な独立国ということになれば、日本として統治下に置きやすくなるわけである。

日本の統治

というわけで晴れて清から完全独立ができた李氏朝鮮が、独立したことをアピールするために国名も変えて大韓帝国と名乗るようになった。のだが、わずか十数年でこの国は終わってしまう。日本による韓国併合である。

そもそも朝鮮半島というのは日本だけが欲していわけではなく、不凍港を目指して南下政策をしていたロシアも狙っており、そこで日本と衝突した結果、日露戦争へと発展する。結果的に苦戦しながらも日本が勝利したので、これで堂々と日本は朝鮮半島を統治することができるようになったのである。これが1910年の出来事である。

そしてそこから日中戦争からの第二次世界大戦がおこり、あれやこれやで日本はポツダム宣言を受け入れて1945年に敗戦を迎える。これにより敗戦国である日本はその制裁として統治していた様々な国を手放すこととなる。当然朝鮮半島もその一つである。ちなみに昔の話なのであまり意識がいかないが、統治期間は1910~1945年までなので実に35年もの期間日本の統治下だったわけで、つまり、1910年に生まれた人は35歳まで日本人として育ってきたことになるのである。

38度線

さて、これで日本の統治が無くなりめでたく朝鮮半島として独立した国ができる…かと思いきやそう簡単にいかないのが面倒なところなのである。先述の通り朝鮮半島はロシア(というよりこの時はソ連)が狙っている国でもある。邪魔な日本がいなくなったのでソ連からすればとても良い機会、ここぞとばかりに…と言いたいところだが、これに対して待ったをかけるのがライバルアメリである。色々揉めた結果、朝鮮半島において38度線を境に、北半分をソ連が統治、南半分をアメリカが統治する形で朝鮮半島が別れてしまった。朝鮮半島民が自分たちで統治するのではなく、アメリカやソ連に統治してもらっている状況なので、これを信託統治という。

38度線 - Wikipedia

なお、いくらソ連が狙っていた地域と言っても、いわゆる植民地化のように自国のものとするということはしない。第二次世界大戦までの戦争においては、勝った国が負けた国の領土を奪うというのが通例であったが、勝った国と言えど戦争ではヒト・モノ・カネを大量に消耗し疲弊し切ることになるため、その状態において文化も言葉も地域も大きく異なる追加の領土の面倒なんぞ見てられないのである。(ましてや世界大戦レベルだとなおさらであろう。)また、負けた国側においても、もともと住んでいた住民がいるわけで、そういった人たちを手懐けるのは簡単ではないことは想像に難くないであろう。

そのため、必ずしも勝利したからと言って植民地なり自国の領土とするということにはならず、従来の朝鮮という国で独立させて、この国をソ連なりアメリカなりの味方につけさせることで世界での覇権を握っていくという方針になっていくのである。特にソ連アメリカはそれぞれ社会主義・資本主義で異なる経済思想をもっているため、時刻に有利な政策の推進や貿易、時には軍事を効率的に行うにあたっては自国の思想に近しい国と協力していく必要がある。そのためにいかに仲間の国を増やしていくかが重要になってくるのである。

もちろんこれは朝鮮に限った話ではなく、西ドイツ東ドイツ北ベトナム南ベトナムといった他の国でも同じである。つまり、ここからソ連アメリカによる冷戦が始まっていくということなのである。

北朝鮮と韓国の成立

さて、北朝鮮にしても韓国にしても、38度線というのはアメリカ・ソ連で勝手に引かれた線であり、そこに住んでいる当事者からすれば南北を分ける理由なんぞなく、統一した国家として独立していきたいのである。というわけで統一をするにあたりトップを決める選挙を行うわけだが、この選挙に対してソ連ないしは北側がボイコットをする。というのも、これまで朝鮮半島は資本主義のイデオロギーを持つ日本の統治下であり、その影響が少なからず残っている状態でそのまま選挙をすれば、社会主義側のソ連としては敗退の気配が濃厚なのであるためである。

そのため、北側においてはこの選挙をガン無視して独自に金日成をトップに置いて朝鮮民主主義人民共和国が成立した。金日成元々社会主義的な活動をしており、同じく世界的な社会主義国家を推進するソ連としてとても有用な人物だったので、とにかくバックアップしまくって金日成政権を樹立するに至ったのである。

他方で南側ではアメリカのバックアップを受けて立候補した李承晩が選挙によって大統領として選ばれ、大韓民国が成立した。

1.2.朝鮮戦争

戦争の開始

こうして北朝鮮と韓国が成立したものの、当事者の思いとしては朝鮮半島を統一して1つの国となることである。これは金日成も李承晩も同じである。しかし、北はソ連、南はアメリカの影響下にあるため、一緒になりたい!といってもソ連、ないしはアメリカがNGを出すわけである。もし、統一した際に資本主義国家として成立した場合は、ソ連ないしは同じく社会主義国家である中国からすると、すぐ隣にアメリカの息がかかった資本主義国家の国と直面することとなり、自国の防衛上緊張感を強いられる。逆に社会主義国家として成立すると、東アジアおよび太平洋海域における社会主義勢力に対するアメリカの優位性が失われてしまう。

つまり、統一を阻止しているのはソ連アメリカの都合ということになる。

とは言っても当の本人たちとしてはなんとか統一に向けて動きたい、ということで北朝鮮側の金日成が中国の毛沢東ソ連スターリンと交渉して、統一に向けて韓国を攻め落とすために軍事的な協力を要請する。話し合いで統一していきましょう~なんてのは現実的にできないので、力づくで統一していくわけである。

しかし、そんなことをしたら当然韓国にはアメリカからの援軍が入るはずなので、支援としてソ連が戦争に参戦したらそれこそ第三次世界大戦が始まってしまう。この時アメリカは終戦間際で原爆を落としたように核保有国家であり、ソ連に核を落とされたりしたら敗けが確定的なので、軍事侵攻はソ連として避けたかった。

ところがある日スターリンから侵攻の許可が出た。ソ連が核開発に成功したため、軍事的にアメリカと対等になれる見立てがついたのだ。そしてソ連からのお墨付きをもらった北朝鮮は38度線を超えて韓国へと侵攻を開始する。これが朝鮮戦争の始まりである。

攻められて攻められて

北朝鮮が軍事侵攻を開始したとき、韓国でも同じように北朝鮮に侵攻して軍事的に統一していくことを考えていたが、アメリカから制止されたため攻め入ることができなかった。ソ連と同様に、アメリカとしても戦争が起きてしまってそのままソ連VSアメリカとなってしまうと第三次世界大戦になってしまうのを恐れているわけである。

そうこうしているタイミングでの北朝鮮からの軍事侵攻であり、しかも明け方4時の奇襲攻撃であったため攻められた韓国としてはろくに抵抗ができずあっさり敗退。この時、軍幹部で宴会をやっていたりして情報が全然連携されず、奇襲があった旨を当時の韓国大統領である李承晩が知るのは6時間後という始末であった。元々の軍事力としては北朝鮮のほうが上であり、兵器や兵隊の人数などで韓国を凌いでいた。そのため、韓国としてはかなり厳しい出だしとなってしまった。

最終的にそのままどんどん北朝鮮に侵攻されていくのだが、さすがにやばいと感じたアメリカを始めとする国連軍が支援に入るものの、第二次世界大戦で疲弊しきった後でろくに訓練もできなかったため、北朝鮮の勢いには勝てず、とうとう釜山周辺を残して北朝鮮に明け渡すというところまで後退してしまった。

仁川上陸作戦

このままでは完全に朝鮮半島北朝鮮のものとなってしまうため、状況を打開する作戦に出ることとなった。仁川に上陸し、北朝鮮の補給路を絶ち、そのままソウルを奪還するというものである。仁川はいわゆるインチョン国際空港の仁川である。

仁川上陸作戦はかなり博打的な戦略であり、マッカーサーが「倍率5000倍のギャンブル」というくらい危険な賭けであったものの、結果で言うと大成功となり、韓国・国連側にほとんど被害を出さずにソウルを奪還することができた。マッカーサーも鼻高々である。

で、これでめでたくソウルを奪還して南半分は韓国のものとなってめでたしめでたし…とはならず、韓国大統領の李承晩は「このまま北半分も取って統一しちまおうぜw」とイケイケムード。仁川上陸作戦で大成功となり調子にのっているマッカーサーも「おうおうお、やっちまえ!」とノリノリでどんどん北に向かって進軍していった結果、平壌も制圧し今度は韓国側がもう少しで統一というところまで来てしまった。

中国参戦

北朝鮮側はさすがにこれはまずいと感じ、金日成ソ連スターリンに支援を要請したものの、のらりくらりと「中国に助けてもらうのがいいんじゃね」と躱してしまう。というわけで中国の毛沢東へと支援を要請することとした。ソ連としては、ここでアメリカと直接対決は避けておきたいという思いと、アメリカを朝鮮戦争により疲弊させておき、その間にヨーロッパでの覇権を取るために準備しておこうと裏で画策していたのである。

というわけでスターリン側からも中国毛沢東に対して、「今北朝鮮をバックアップしないと、また日本に占領されまっせw」と焚きつけることで中国からも支援しやすい状況を演出した。ただ、中国側としては第二次世界大戦が終わり国共内戦※をしまくって疲弊している時期ということもあり、これ以上また戦争をするとなると国内外からの非難轟々となってしまうため、あくまで義勇軍という形で支援することとした。つまり、政府として派遣したのではなく、本人たちの希望です!という形にすることで、建付け上、国として戦争に関与したわけではないよということにしたのである。

国共内戦については話がそれるのでここでは詳細は省略する。要は中国国内における共産党と国民党との争いで、日中戦争第二次世界大戦中は日本と戦うために手を取っていた(国共合作)が、日本が敗戦し共通の敵がいなくなったことで中国国内での覇権を争うこととなった。

というわけで中国が本格的に参戦したことで北朝鮮の勢力も復活し、またもや韓国側を押しやることに。こうして結果的に当初の38度線付近のエリアまで奪還することに成功した。

停戦

その後、あれやこれやで攻めたり攻められたりがあったものの、泥沼化し、なかなか決着がつかなかった。お互い疲弊してきているため、そろそろ辞めにしようということで、停戦交渉に入っていくのだが、これがまたもつれる。お互いにとって有利な条件で決着をつけたいわけだが、片方にとって有利な条件は片方にとって不利な条件になるのだからある意味当然である。

特に厄介なのが金日成としては国内が疲弊しきっているので正直戦争は辞めたかったのに対して、スターリンがイケイケということであった。スターリンがイケイケであれば中国の毛沢東もイケイケとなり、結果金日成としてはジレンマにさらされる事となったのである。他方の韓国側は李承晩は「北進統一」を掲げてイケイケだったのだが、それをアメリカがなだめるという構造。それぞれの国のトップにおいて思惑が錯綜している状況であった。

結果的に、スターリンが1953年に死去したことで北朝鮮側のイケイケムードが鎮圧され、ようやっと停戦へと向かうことができた。停戦にあたっては北朝鮮と韓国の境目にある板門店において停戦協定が結ばれた。が、あくまで停戦であり、終戦ではない。そのため、めでたく朝鮮戦争が終わったのではなく一時停止中という取り扱いとなる。つまり、現代においてもまだ韓国と北朝鮮は戦争中であり、例えば韓国において20歳以上の男性に徴兵制度があるのはそのためである。

軍事境界線DMZ

こうして停戦となり、北朝鮮と韓国を分ける境界線を一旦定めることとした。これを軍事境界線というが、朝鮮戦争は終わってないので決して"国境"ではない。この境界線自体は必ずしも海や川などの自然環境で区切られているわけではなく、陸続きなのでうっかり相手国に入ってしまうこともできてしまう恐れがある。こうなると境界線上でお互い睨み合うことになるわけだが、こんな状態だと何かあった時には即争いへと発展しかねないので、軍事境界線から北と南でそれぞれ2kmの範囲を非武装地帯(DeMilitarized Zone=DMZ)とすることで、安易に軍事境界線に近寄れないようにしている。

で、これをやっても、「陸続きなのだから、DMZに入っちゃえばそのまま軍事境界線も頑張れば越えられるのでは?」という人が出てきてしまうので、地雷を撒くことで安易にDMZ自体に入れなくしている。

現在では、DMZツアーという形で観光客向けにDMZエリア(のうち整備されている地域)に入って各種北朝鮮と関係ある施設や、北朝鮮が見える展望台に行くことができる。

さらに、DMZの中でも本当に軍事境界線上に行くことができる場所があり、そこがいわゆる板門店である。板門店エリアは共同警備区域(JSA)となっており、この場所は局地的に北朝鮮・韓国が接しているため、それこそこの線を超えたら北朝鮮、というエリアになっている。例えば韓国ムン・ジェイン大統領や米国トランプ大統領金正恩と会談した時にはここを超えて北朝鮮に入ったりしている。が、これは例外中の例外で、我々一般人は絶対に超えることができないよう、厳重に警備が固められている。

1.3.金一族について

金日成

北朝鮮を作ったのは先述の通り金日成であり、これは今の北朝鮮のトップである金正恩の祖父にあたる。金日成はかねてより抗日パルチザンという中国共産党系の組織に属しており、「抗日」の名前の通り、当時満州・朝鮮を統治していた日本に対する抵抗勢力として闘争活動をしていた。ここにおいて様々な戦いを繰り広げ名を上げてきたわけである。

なお、北朝鮮の建国神話においては、金日成抗日パルチザンであった頃は日本軍と10万回戦い全て勝利を収めたということになっているらしい。建国神話しかり宗教の教祖伝しかり、起源の正当性を示すためにこの手のものは総じてこのような誇張があるものだが、とは言えもう少しリアリティのある数字にしなかったのか。

いずれにせよ、このような活躍ぶりがソ連軍の目に留まり、第二次世界大戦後の北緯38度線で分割したあとの北朝鮮のトップとして、ソ連の後押しを受けて上り詰めたわけである。そこからの朝鮮戦争の流れについては上述の通りである。

朝鮮戦争が停戦となったあとは、北朝鮮国家主席として独裁政治を進めていくことになるのだが、無茶苦茶な施策を打ち出すことで国力を低下させていくこととなった。例えば北朝鮮は韓国に比べて平地が少なく農地に適した土地が少ないため、食料確保のため、山を切り開いて大規模に土地開発を行うように命じた。のだが、無計画に切り開いていったことで、水はけや土留めを行う考慮ができておらず、多少の雨で田畑が流れてしまいとても農地としては使い物にはならない状態となっていた。そしてこれにより結果的にハゲ山となったことで土砂崩れなどの自然災害が多発するようになってしまった。その他にも、米やトウモロコシを超高密度で植えることでたくさん収穫するよう命じたりもしたのだが、当然こんなんではろくに植物は育たないので空けなく大失敗となるわけである。(これらの愚策を主体農法という。主体というのは金日成が掲げる主体思想という共産主義系の思想から来ている)

このようにして北朝鮮という国がグダグダになっていくわけだが、とは言え最初の方はソ連の後ろ盾の元、なんやかんやまだまともに国を運営することができていた。これがソ連崩壊に伴い、その後ろ盾も無くなり、アホな政策が相まって北朝鮮が最貧国へと向かっていくことになる。

金正日

金正日金日成の長男であり、金日成の後継者である。金日成の健康状態が悪化し、死亡した後に北朝鮮国家主席として1997年に就任した。金正日北朝鮮の出身ではなく、金日成抗日パルチザン時代に逃亡先であったソ連にて生まれたと言われているものの、北朝鮮的にはこれまた神格化を高めるために白頭山にて誕生したということになっている。白頭山というのは北朝鮮と中国の国境にある2,744mの山であり、ネットで拾った写真を見る限りではとても景色が素晴らしい。中国側では長白山と呼ばれており、中国側からは普通に登山が可能である。(山頂に北朝鮮との国境線があるが、越えられないよう警備員がいるらしい。)

金正日国家主席になるのは1997年であるものの、それ以前から政治・軍の中心人物として様々な影響を与えていた。例えば日本でおなじみの拉致事件だったり、大韓航空機爆破事件といった事件は金正日が実績を作るために主導で起こしたものと言われている。

金正日の時代において、北朝鮮は最大の飢饉である「苦難の行軍」を迎えることになる。それまでの失敗に次ぐ政策で国が疲弊している中、大洪水に見舞われ大規模な飢餓に襲われることになり、数百万人に及ぶ国民が犠牲になったといわれている。北朝鮮社会主義国家ということで、それまで国民全員に対して食料配給を行っていたのだが、このような状況に陥ったため当然配給なんぞできる状態でもなく、国民はその辺にいる虫や小動物を捕まえてなんとか飢えをしのいでいかないといけないという悲惨な状態であった。

通常、こういうような事態に陥れば諸外国が救いの手を差し伸べるわけだが、相手は北朝鮮。このときにはミサイル開発をしており、当然周りの国からのイメージとしても閉鎖的で最悪な独裁国家で支援できる状態ではなかった。この時、北朝鮮からの脱北者もピークに達していたという。

また、金正日と言えば喜び組の存在であろう。かつて日本で拉致問題などがニュースでよく取り上げられていた頃、合わせて喜び組についても報じられることが度々あった。喜び組金正日に対してさまざまなサービスを行う女性軍団であり、健全なものもあれば不健全なものもあった。

そんな金正日も2000年代後半頃から体調を崩しがちになり、後継者を指名してく必要があった。金正日の長男は金正男で、普通に考えれば後継者は金正男となる。しかし、金正男は元々金正日が成蕙琳との間にこっそりもうけた子供であり、5歳になるまで金日成はその存在を知らなかったという、かなり複雑な環境で生まれており、正当性が正直薄い人物であった。また、金正男本人もあまり政治には関心が無いようで、お忍びで日本のディズニーランドに行ったりしている姿がニュースに流れたことを覚えている人も多いであろう。学生時代から留学していた関係上、思想的にも西欧の自由主義に染まっており、むしろ北朝鮮の体制には批判的でもあったと言われている。(その結果、マレーシアで暗殺されるわけでもある。)そして次男の正哲はギター大好きおじさんであり、やはり政治的実権を握る後継者として力不足であることが否めなかった。

というわけで後継者となったのが今の国家主席でもある金正恩である。

金正恩

金正恩金正日の三男にあたる。長男の金正男は先述の通りあまり政治に関心が無く、そして次男の金正哲もあまり政治に関心が無くギターばっかり弾いていたことで、結果的に三男の金正恩金正日の後継者となったわけだが、とは言え単に消去法で金正恩になったというわけではなく、本人の素質だったり、金正恩が若い頃の金日成に似ているといった点でも人望が厚かったようである。

ちなみに金正恩金正男は異母兄弟であり、金正恩の母親はなんと日本人。正確には在日朝鮮人なので民族的には朝鮮族となるだろうが、大阪市生野区鶴橋生まれで、在日二世である。日本から北朝鮮に移り住み、その後喜び組に加入をし、様々な舞台に出演するなどして活躍していく中で金正日に見初められ、関係を持つようになったのである。

金正日政権との違いとしては、まず喜び組の扱いである。喜び組のイメージがやはり諸外国からは下劣に見られているためなのか、金正恩の好みの問題なのかは分からないが、金正恩はそれまでの喜び組を再編成し、高級志向の「銀河水管弦楽団」という楽団を結成した。現在、銀河水管弦楽団含め喜び組がどの程度活発に活動しているかは不明であるが、少なくとも金正日の時ほどは活発では無さそうで、金正恩も正妻である李雪主一筋のようである。ただ、とは言え金正恩1984年生まれでこの記事を書いている時点ではまだ39歳。今後どうなっていくかはわからない。

また、金正恩はかなりのバスケットボール好きである。学生時代にスイス留学していた頃に興じていたようで、それなりに実力もあるようである。バスケットボールが好きすぎて北朝鮮デニス・ロッドマンを呼んだりもしており、もちろんそれに対してかかる各種費用の大元は国民からの搾取である。ちなみにスイス留学の時には当然「金正日の息子」とバレてはまずいので、パク・ウンという偽名を使って留学をしていた。

金正恩政権になってから各種罰則などが厳しくなったとも言われている。例えば脱北者に対する厳罰化や、そもそも脱北できないようにするために中国との国境の警備を今まで以上に厳重にするなど、取締を強化していると言われている。そのため、脱北者は2010年頃には2,000~3,000人規模に達していたものの、金正恩政権になってからは1,000人台へと減少している。特に2020年からはコロナの関係で国境の出入りがさらに厳しくなったことで大幅に減少している。

コラム 脱北について

北朝鮮の生活に耐えきれなくなった国民の中には脱北を試みることになる者もいるわけだが、北朝鮮において脱北は重罪となり、もし捕まれば本人はもちろん場合によってはその家族まで処罰の対象となると言われている。

脱北ルートはいくつかあるのだが、まず軍事境界線を越えてそのまま韓国へ行く方法があるが、これは一番難易度が高いと言われている。というのも、軍事境界線はガチガチに警備が固められているため、一般市民はそこに近寄ることも事実上不可能だからである。極めて稀な例として軍の関係者で軍事境界線を越えて脱北する例があり、地雷や警備隊からの銃撃を受けながらも韓国へ逃げた監視カメラの映像が残っていたりする。(過去にニュースにもなっているのでYouTubeなどで見ることが可能。)

ポピュラーな脱北方法としては中国を経由する方法である。北朝鮮の北限、つまり中国との国境は川で区切られており、これを超えることで中国へ行くわけである。とはいえ簡単に越えられるわけではなく、やはりここも見張りがいるため普通には渡ることができない。そのため、ブローカーという仲介役に賄賂を渡し、北朝鮮側・中国側の見張りに見逃してもらうよう事前調整をした上で越境をするのである。

ただ、中国へ行けば安心というわけでもなく、中国と北朝鮮は国交があり、中国で捕まるとそのまま北朝鮮へ送還するよう協定が結ばれている。そのため、中国に入国した後は一定期間匿ってもらったりしながら、第三国へと移動していく必要がある。かつては北京にある韓国大使館などに行けばそこから韓国に行けたこともあったらしいが、脱北者どんどん増えてきてしまい対応しきれなくなったということで現在ではこのルートは使えない状態となっている。

ちなみに、脱北するまでの間においては中国にいる間が一番大変と言われている。もちろん北朝鮮からの脱出そのものも大変ではあるのだが、中国からすれば密入国不法滞在者という扱いで、なおかつひとたび通報されれば脱北失敗となるため、北朝鮮人はかなり弱い立場を強いられる。そのためせっかく脱北できても中国にて奴隷のような扱いを受けたり、人身売買の対象となってしまう場合があり、北朝鮮のような食の心配は無くなるにしても人道的につらい立場を強いられることになる。

さて、中国を経由して次に向かう第三国として代表的な国はモンゴル、タイ、カンボジアといった国である。距離的に一番近いのはモンゴルであるが、この中では一番過酷であるとも言われている。というものモンゴル南部はゴビ砂漠に覆われており、砂漠を渡っていかないとたどり着けないためである。モンゴルというと大草原のイメージがあるかもしれないが、グーグルマップなどを見てもらうと分かる通り中国に接しているエリアはほとんど砂漠となっている。内モンゴル自治区も含めればその砂漠の広さがどれほどのものかよく分かるであろう。

では、次の候補はタイやカンボジアということになるが、ここに行くまでまず中国を北から南まで縦断していかないといけない。飛行機はパスポートなどの検閲が入るため使うことができず、地道に長距離バスを乗り継いで中国の南端にまで行くのである。

さて、ここからまた密入国が必要となる。タイに行くのであればラオスを通らないといけず、カンボジアに行くにはベトナムを通らないといけない。これらの国を通るには国境沿いのジャングルや山を自力で越えていかねばならず、やはりこれはこれでかなり過酷な旅となるであろう。

「タイやカンボジアではなく、ラオスベトナムから韓国には行けないのか?」という疑問があるかもしれないが、ラオスベトナム社会主義国家であり、それゆえある程度北朝鮮とも親和性が高く、確実に韓国へ行ける保証がタイやカンボジアに比べて薄くなってしまうだろう。(ただし、ラオスの韓国大使館経由で韓国に亡命した人もいるので一概には言えない。このあたりはその時の政治的な情勢やブローカー次第なのであろう。)

こうしてなんとか第三国へと移動した上で、韓国大使館なり難民施設なりで匿ってもらい、各種手続きやスパイ検査などを受け韓国へと行くことができる。つまり、これで晴れて脱北が成功ということである。直線距離であれば目の前とも言える韓国に行くために、北朝鮮を出てから1~2年、下手したら数年かけて気の遠くなるような遠回りをして、自由を手に入れるのである。

2.北朝鮮経済について

2.1 GDPの推移

今となっては考えられない話だが、実は朝鮮戦争後の北朝鮮と韓国において、経済的に優位だったのは北朝鮮であった。というのも、当時、韓国は平地が多かったため主に農地をメインとした土地活用をしていたのに対して、北朝鮮は山地が多く農地に適さない分、工業地域をメインとしており、日本の統治時代にこの方針に則って産業発展を遂げていたためである。日本が敗戦した後でも当時の日本が残していた各設備などが残っており、朝鮮戦争にて設備が壊れたりしていても、ソ連や中国からの支援を受けながらこれを活用することができたことで北朝鮮の経済発展に幾分寄与することとなったわけである。

その結果1950年代~1960年代におけるGDP北朝鮮の方が上回っており、数字だけで言えば北朝鮮の方が豊かな国だったのである。ただし、その後については言うまでもなく、金一族の愚策とも言える独裁政治により世界有数の貧困国へと成り果ててしまった。

引用元:北朝鮮の経済成長 | rionaoki.net

上記が北朝鮮と韓国を比較したグラフである。1970年代を境にして韓国が急成長しているのに対して北朝鮮は停滞しているという状態である。ただし、北朝鮮がオフィシャルなGDPを発表しているわけではないので数値は推測にすぎない。しかし、これだけの差が開いているということは、決して違和感を覚えないであろう。

2.2 社会主義について

さて、いまさらでもあるが北朝鮮社会主義国家である。社会主義国家はソ連にて打ち立てられ、その後中国、キューバベトナムラオスといった国でも採用されていくが、現在において純粋な社会主義国家というのはキューバくらいしかなく、それ以外の国は経済については自由競争を前提とした資本主義的な政策を取り入れている。

本来社会主義の思想としては、経済を国家でコントロールし必要な食料や物資は国民に均等に配給することで平等を実現するものである。この現代においてはソ連の崩壊や北朝鮮の状況を見る限り社会主義は完全に失敗している思想であると言えるであろうが、それは今だから言える話である。

この考え方ができた当時は産業革命により工業的に様々な商品が大量生産され、それを売りさばくことで一部の資本家で莫大な利益を上げるという経済構造となっていた。その際、資本家としてはとにかく稼ぐことを主眼においており、労働者の権利や働き方なんてのは全くもってガン無視状態で、子供ですら朝から晩まで15時間労働させるような超絶ブラック企業であった。当然、それでいて従業員に支払われる給料は雀の涙なので、労働者というよりもはや奴隷といっていいレベルである。日本の名だたるブラック企業でもここまで酷い会社はそう無いであろう。

このような社会状況であるがゆえに、社会主義のようにみんなが平等に生活が保証される世界というのは、相当理想的な政策となるわけである。そのため、社会主義は決して空虚なものではなく、人によっては本当に渇望していた世界なのであった。

では実際に社会主義となった国はどうなっていったか。

社会主義の問題点についてはそのあたりの専門的な解説ではないので詳細は省略するが、主たる問題の1つとしては、国家主体の計画経済という構造上どうしても国家に権力が集中してしまい、政治の独裁化を引き起こし、結果、平等を謳う思想でありながら一部の権力層に富が集中するという矛盾を引き起こしてしまったということであろう。

北朝鮮はまさにこの状態であり、なおかつ後述するミサイル開発などにより世界から孤立していくことで必要な支援も受けられず、ますます国民の生活は苦しくなっていくのである。

2.3 ミサイル開発

当然のことながらミサイル開発をするにあたっては莫大な費用がかかる。その費用を少しでも国民へと回せば国力の回復へと繋げられるというのにも関わらず、とにかくミサイルを打ちまくっているという現実がある。

ではミサイル開発にあたってはどれほどの資金が投じられているのか。時々ニュースで名前を聞くであろう大陸間弾道ミサイルICBM)は、1発あたりの材料費が2千万~3千万ドル(約27億~40億円)に上ると試算されている。他方、短距離弾道ミサイルの材料費は、1発あたり300万~500万ドル(約4億~7億円)と見積られている。

参考:コメよりもミサイル! 北朝鮮のミサイル開発費用は一体いくら?(辺真一) - エキスパート - Yahoo!ニュース

これを何十発も海に向かって打っているので、日本円換算で何百億に相当する金額が海に捨てられてしまったということになるであろう。特にここ数年やたら打っている印象を受けている印象を受けると思うが、実際以下の通り、金正恩政権になってからミサイル発射数は増えており、特に2022年は多い年となった。

引用元:防衛省北朝鮮による核・弾道ミサイル開発について」

https://www.mod.go.jp/j/surround/pdf/dprk_bm_202308.pdf

なお、"ミサイル"というと遠距離攻撃をするための兵器というイメージを持つかもしれないが、実は正確に言うと違う。ミサイルというのは「エンジンを使って自らの推進力で遠距離まで飛翔する物体」のことを差し、厳密には攻撃有無の意味は持たない。ミサイルの先端に爆弾など兵器を搭載することで初めて遠距離攻撃が可能となり、単にミサイル"だけ"であればそれが墜落したところで被害は極小的であるといえるだろう。

とはいっても、ミサイルが到達するということは事実上その地点に対する攻撃が可能ということであるのと、ミサイルをなんで飛ばすかと言えば遠距離攻撃をするためなので、この場ではミサイル=兵器という理解でも問題はないであろう。それこそミサイルの先端に核爆弾を搭載すれば、立派な核兵器となるわけである。(つまり、これがニュースなどでよく聞く核弾頭ミサイルである。弾"道"ではなく弾"頭"である。)そのため、攻撃用途として飛ばさなくても、威嚇としては十分機能するといえる。

ミサイル開発の意図

ではなぜ北朝鮮は莫大な費用を費やしてまでしてミサイル開発をするのかというと、もちろん本当のことは北朝鮮に聞いてみないとわからないわけだが、通説では金一族の体制維持のためと言われている。つまり、金一族がこの独裁体制を維持するにあたり、諸外国から力づくでねじ伏せられないようにミサイルおよび核兵器を持つことで身を守っているわけである。先述の通り、核兵器があったところで相手のところに飛ばなければ意味ないわけで、核兵器+ミサイルの2段構えによって初めて相手を攻撃できる。そして昨今ニュースで耳にするICBMというのが大陸間弾道ミサイルと呼ばれ、要はそれまでのミサイルはせいぜい韓国や日本までしか飛ばなかったものに対して、アメリカまで飛ばせるまでの性能をもったミサイルのことを指す。つまり、これが開発できたことでいざとなったらアメリカに対して核爆弾を投下できるというアピールに繋がるわけである。

そして北朝鮮がミサイルを発射するにあたっては闇雲に行っているわけではなく意図をもって発射している。2022年にミサイル発射が急増したというのは述べたとおりだが、単に実験のためだけにやっているわけではなく、北朝鮮がミサイルを発射する際においては主に韓国やアメリカに対する威嚇であることが大半である。そもそも北朝鮮における敵国というのは、朝鮮戦争における因縁の相手である韓国とそれをバックアップするアメリカである。もちろん、資本主義国家として繋がりが強い日本も敵国に入るわけだが、直接的な因縁を持った相手としては米韓の2国が筆頭となるわけである。

そして、韓国においては現在においても来るべき北朝鮮との戦争に備えて徴兵制度なりで軍事的な準備をしているわけだが、それにあわせて在韓米軍も韓国と合同演習を行うことで体制を強化しているわけである。北朝鮮からすれば危なっかしいことこの上ないであろう。そのため北朝鮮にてミサイルを発射するのは、韓国やアメリカが合同で軍事演習を行ったり、北朝鮮付近をヘリコプターでパトロールすることに対する警告として行うのである。

上記を踏まえてニュースを見てみると、北朝鮮のミサイル発射の前後には必ずと言っていいほどこのようなイベントが発生している。たとえば以下の記事の通り、2023/8/30に発射したミサイルは8/31の米韓軍事演習に対する威嚇である。

米韓合同軍事演習終了 北朝鮮ミサイル発射などへの警戒続ける | NHK | アメリカ

つまり、北朝鮮があえて日本にミサイルを狙って撃つ必要性は現時点で基本的に無いといえる。もちろん、北朝鮮が制御をミスって誤って日本に飛ばしてしまう可能性も0ではないし、そもそも何するかわからない国なので用心するに越したことは無いだろうが、では、本当に日本に飛ばしてしまった場合はどうなるであろうか?もしそのような事態が発生して日本に多大なるダメージを与えてしまったら完全なる国際問題となり、それこそ諸外国から力づくでねじ伏せられるきっかけを与えてしまうこととなるので、万が一でも北朝鮮としてはそんなことをやらないと言える。そのため、細心の注意を払って安全に海に落とすこととなるのである。

北朝鮮の軍事力

さて、このように北朝鮮ではせっせとミサイル開発を進めていたり、かつてテレビなどでも度々見られたマスゲームのように人民にも軍事的な教育を施したり、徴兵制度も韓国よりかなり厳しい条件(男子はもちろん必須でなんと10年、そして女子も必須で8年に至る)で課せられているのだが、では韓国の軍事力というのは世界的にどれほどなのであろうか?結論でいうと、北朝鮮における軍事力は世界でも大したことはないといわれている。もちろん情報がどこまで正しいかは不透明であるが、以下、ニュース記事などから拾った情報で整理する。

まず、軍事費として投下している予算は~100億ドルほどと言われている。日本円にすれば~1兆円の規模となり、金額だけで聞くと巨額のように思えるが、例えば我が国日本における国防費は約6兆円である。そして韓国も日本と同程度の支出となっており、少なくとも金額ベースで言えば韓国の6分の1程度しか費やせていないのである。しかし、何度も言うように北朝鮮は超極貧国家。GDPの割合でいうと15~20%ほどに達していると言われおり、なけなしの予算を軍事費に投入しまくっているわけである。で、それであっても韓国には全然及んでいないというのが実情なのである。

なお、以下、参考までに主要国の軍事費とGDP比率を引用する。

1ドル=130円で換算 %はGDP

  1. 米国(8,770億ドル=114兆円)    3.45%
  2. 中国(推定2,920億ドル=38兆円)    1.60%
  3. ロシア(推定864億ドル=11兆円)    4.06%
  4. インド(814億ドル=10.5兆円)    2.43%
  5. サウジアラビア(推定750億ドル=10兆円)    7.42%
  6. 英国(685億ドル=8.9兆円)    2.23%
  7. ドイツ(558億ドル=7.2兆円)    1.39%
  8. フランス(536億ドル=7兆円)    1.94%
  9. 韓国(464億ドル=6兆円)    2.72%
  10. 日本(460億ドル=6兆円)    1.08%

(参考)北朝鮮(~100億ドル=~1兆円) 15~20%

2022年の日本の軍事費6兆円、韓国に次ぎ世界10位に―スウェーデンのSIPRI調査 | nippon.com

話は脱線するが、こうしてみると案外日本における防衛費はそれなりに高い。平和であるがために勘違いしてしまいがちだが、その平和を守るために多額の予算を投じているのである。さらに岸田政権においては数年後に向けてGDP比を2%水準まで防衛費に割こうとしている。つまり将来的に約10兆円規模まで防衛費を拡大しようとしているのが現在の日本の状況である。

そして徴兵制度については、男子10年、女子8年ともなれば凄まじく精鋭部隊が出揃うのであろうと思ってしまいがちだが、それはあくまできちんと徴兵制度が成り立っていることが前提である。北朝鮮の食料不足は何も一般市民だけの話ではなく、徴兵制度で駆り出されても食事はろくに与えられるわけではない。また、容易に想像つく通り訓練も洗練されていないため、特訓方法がただの徒労となってしまう前時代的なものであったり、教官からはパワハラ、というより拷問レベルの処罰が下ったりと、散々な状態である。このような状況において、食料を手に入れたり教官から理不尽な扱いを受けないようにするために賄賂も横行しており、完全に内部は腐敗しているのである。また、徴兵制度で駆り出される年齢は20~30歳のもっとも若くて働き盛りの年齢であるため、徴兵制度で集められた若者は、例えば農作業であったり、建設中の建物の現場仕事といった肉体労働の要員としてもあてがわれるのである。となると、来るべき時に備えて訓練するための徴兵制度のはずが、国家事業のための労働力に成り下がってしまっており、これではとてもだが戦争が起きた時に本当に役に立つのか怪しいところであろう。

2.4 国民の暮らし

平壌との格差

北朝鮮の首都といえば平壌というのは当然知っているであろうが、北朝鮮において平壌というのはかなり特別な都市となっている。日本含め、通常諸外国においては国内どこに行くにしても特に誰でも制限無く行けるものである。北海道の人も沖縄の人も飛行機を使って東京に行くことは日常茶飯事であるし、学業や仕事の関係で地方在住者が東京に住む、というのも何も珍しくない。というか当たり前である。

ところが北朝鮮ではそれが当たり前ではない。平壌市民はそれ以外の人民と明確に分けられており、平壌市民以外は許可なしに平壌に立ち入ることはできない。もし平壌に入ろうとするにはそれ相応の理由を持って事前に届け出を出して許可証を発行してもらわないといけないのだが、その許可証も迅速に出してくれるものではない。そのため、明日ふらっと平壌に行く、なんてことはできないのである。もっというと地方在住者は平壌に限らず、遠方地へ行くこと自体が禁止されており、やはり行こうとする場合は事前に許可証を発行してもらわないといけない。

平壌市に住めるのは基本的に上流階級に属する国民となる。もっと具体的に言うと北朝鮮では「出身成分」という概念で上から順に「核心階層」「動揺階層」「敵対階層」と階級が別れている。核心階層は金一族・北朝鮮国家に対して忠誠心が高く、平壌に住める等の様々な優遇が受けられる階級となっているが、ここでいう忠誠心の高さというのは単に本人の忠誠心が高ければOKというものではない。朝鮮労働党員であったり、朝鮮戦争で戦った軍人の遺族であったりというような条件のもとで決まり、また、不祥事などがあれば容赦なく「動揺階層」へと降格するため、必ずしも安泰とは言えないのである。

次に、中流階層ともいうのが「動揺階層」となりこれが北朝鮮におけるボリュームゾーンである。もちろん北朝鮮に住む以上金一族に対する忠誠心は求められるわけだが、心の底から忠誠心に染まっているかが疑わしい、という前提の身分となっている。大学進学が可能など能力に応じて一定の優遇措置は受けられるものの、核心階層に比べると生活面であったり進学や出世など色々と不利であることには変わりない。そもそも「大学進学が可能」ということが優遇措置となる事自体おかしな話でもある。

そして最後に名前からしてろくな扱いを受けないことが容易に想像できる「敵対階層」である。この階層になると平壌への居住は完全に無理で、高等教育への道も閉ざされる。そのため重労働や単純労働に従事する他なく、ただでさえ貧しい北朝鮮において苦しい生活を強いられてしまう層となる。

チャンマダンによる市場経済

さて、北朝鮮といえば社会主義経済の国であるものの、ソ連が崩壊したことでロシアからの援助も途絶え、経済が回らなくなり、1990年代には苦難の行軍といった大飢饉が発生し、配給が途絶えてしまった。このような状況下においてはとてもだが国家できちんと経済を管理できる体制とは言えないであろう。

そんな中、チャンマダンと呼ばれる市場が自然発生的に生じた。いわゆる闇市であるが、市場経済として物の売買が行われる取引所が形成されることとなった。本来的には社会主義経済においてこのような自由競争が可能な取引所があるということは、国家の物資管理や価格管理ができなくなるのでご法度となるが、配給がろくにできない中でそれを取り締まることは事実上不可能であろう。

まだ現代の北朝鮮の若者は生まれたときからこのチャンマダンが存在している世代となるため、チャンマダン世代と呼ばれており、いわゆる昨今で言うZ世代のような新生代として認識されている。それまでの社会主義を前提として金一族に忠誠を誓うことが前提であった北朝鮮の世界において、資本による経済合理性を追求することが前提となった世代となり、経済面だけでなくK-POPや韓流ドラマなどの敵国であるはずの韓国の文化にも触れることで、金一族による朝鮮労働党の体制は水を差す邪魔な存在として映るわけである。そのため、チャンマダン世代は今後の北朝鮮の変革を促す世代として期待が高まっているのである。

もちろん朝鮮労働党側もこれを容認するはずもなく、海外文化の流入を厳しく制限したり、海外ドラマを見たものは強制収容所送りにするなど徹底的な弾圧を行うことで統制を図ろうとしている。

2.5 もし北朝鮮と韓国が統一したらどうなる? 

社会主義国家と資本主義国家が統一した例としては西ドイツと東ドイツがあるだろう。西ドイツは資本主義国家、東ドイツ社会主義国家として運営されていたが、ベルリンの壁崩壊に伴い再統一し、現在は1つのドイツとなっている。それまで40年ほど別れていたため、西ドイツと東ドイツで多大なるGDP格差が生まれていた。資本主義を取っている西ドイツの方は競争社会においてどんどん技術革新が進み、経済発展をしていった一方、計画経済に基づいた政策をとる東ドイツはそれに比べて経済発展の進歩は遅くなってしまったわけである。そのため、ドイツが統一したばかりの頃には西ドイツからすれば経済停滞している東ドイツを支援する立場にならざるを得なくなり、ドイツ全体として大きく景気が悪化した。

北朝鮮と韓国においてはそれ以上の格差があるはずである。そのため、もし北朝鮮と韓国が統一した場合、北朝鮮のインフラを整えたり経済を立て直すにあたって韓国の富が配分されるのは間違いないであろう。そうすると韓国民からすれば、熾烈な競争社会で頑張って稼いだ資本、およびそれに伴う税金が北朝鮮のために使われてしまうという構造となるわけある。現在のドイツが世界有数の先進国で、円安の関係もあるものの日本を抜いてGDP世界3位になった経済大国となったように、北朝鮮と韓国の統一により長い目で見れば多大なる経済発展へと寄与するであろうが、北朝鮮の伸びしろが多すぎる分、このレベルの経済発展をするには痛手を負う覚悟も必要であろう。

ちなみに北朝鮮の人口は約2500万人ほどと言われている。韓国が約5000万人なので足せば7500万人。世界的に見ればそれなりの大国と言える人口規模である。韓国では日本以上の少子高齢化などが問題となっているが、そういった問題も緩和されていくはずである。日本では移民を受け入れるか否かというのが論点になったりもするが、移民を受け入れずに済むに越したことは無いわけである。

真面目に統一について考えようとすると、経済面だけではなく政治面や文化面など多様な切り口で整理していく必要があるであろう。それだけで1冊の本が書けそうな気がするが、自分にはそこまでの知見が無いためここまでにしておく。

コラム 脱北後の生活

前のコラムでは脱北の方法について記載をした。命がけで脱北し、無事韓国に行ければ幸せな生活が手に入る…かというと実は必ずしもそうとは限らない。

脱北者は韓国に入り各種手続きを済ませた後に、ハナ院という施設にて韓国社会に適用するためのプログラムを受ける。社会主義と資本主義の違いといった思想的なところから、電車の乗り方、仕事の探し方といった実生活に直結するようなことまで、様々なサポートを受けながら韓国社会に適合していく。ちなみに脱北者北朝鮮という国籍ではなく、韓国人としての国籍を手に入れることができる。韓国の憲法では朝鮮統一が前提、つまり北朝鮮も韓国領土という扱いにしているため、北朝鮮人も同じ民族という建付けなのである。

こうして銀行口座や住所などを手に入れ、韓国人としての生活を始めることができる…のだが、現実はなかなかそう甘くない。いくら言語が同じとは言え、極端に偏った社会主義生活様式を前提として何十年も生きていた人が韓国社会に馴染むのは難しい。社会主義国家が崩壊した理由の主だったものとしては、国家が平等に分配をするため、どんなに頑張って働いても給料は一緒、つまり頑張って働くだけ損という仕組みになってしまい、その結果経済が成長せずにどんどん衰弱してしまったわけである。当然、この社会主義システムを前提とした北朝鮮においても同じような状況となるため、偉い人が見回りに来た時だけ頑張って働き、あとは最低限のノルマさえこなせば良いという働き方となってしまうのである。

他方、韓国はゴリゴリの資本主義社会、さらにその中でも日本以上に熾烈な学歴社会で、激しい受験競争に晒され、労働時間や自殺率も日本を超えるモーレツ社会である。当然、頑張って成果を出せば出すほどその分の見返りは見込めるものの、その加熱した競争社会に、それまでの社会主義精神で働いていた北朝鮮人が入り込むのはかなり厳しいものであるのは想像に難くないであろう。当然、北朝鮮人に学歴なんてのは無いので良い職業にもつけず、中には犯罪に走ったり、弱い立場に漬け込まれて詐欺に遭ったりもする。

そんなわけで北朝鮮人というのは韓国社会においてあまり良い目で見られない。確かに独裁政権のせいで脱北せざるを得ない状況になるのは可哀想だとしても、韓国の生活水準を前提とした働き方や社会に馴染めない、その割には「脱北者」ということで国からの支援を受けられる。つまり、韓国人からすれば「学歴もない仕事もできない税金泥棒」という見え方もできてしまう。かつての朝鮮戦争直後であれば、例えば親戚が北朝鮮にいたりしてある程度北朝鮮に対する友好的な考えもあったものの、現在はそれからもう70年経過し、すでに戦争のことなぞ知らない世代で、ずっと北朝鮮と韓国が分断されていることを前提に人生を過ごしている。となると、北朝鮮に対する思い入れというものどんどん薄れてきてしまうものである。

そのため、せっかく命がけで脱北しても北朝鮮に戻るという人も一定数いると言われている。韓国にいても居づらい思いをするのであれば、家族がいる北朝鮮で生活したほうが良いということである。ただし、脱北者北朝鮮に戻ったところで安全に家族の元へと返してくれるのかは怪しいが。