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世界標準の経営理論のまとめ

世界標準の経営理論についてまとめる。自分なりに各章をまとめるとともに、自分の考えも補足する形で整理した。800ページにおよぶ膨大な本となるが、このうち第一部~第四部の各種理論に関する内容のみをまとめた。(それでも600ページ以上に及ぶが)。まとめきれていない論点が多々あったり、また自分の理解のために記載を改めなおすことで正確性が失われている部分も多いが、あくまで自分の自己研鑽目的で作成したもののためご了承。

第1部

第一章 SCP理論

概要

SCP理論はある企業およびその業界が儲かる儲からないは産業構造によって決定することを述べた理論である。その前提には市場が完全競争であるとし、この完全競争に近い業界であればあるほど超過利潤が発生しづらい=儲からない業界へとなっていく。具体的に完全競争の前提は以下の通りとなる。

1:市場内には無数の企業があり、どの企業も市場価格には影響しない
2:参入障壁や撤退障壁のコストが無い
3:提供する製品・サービスは同業他社と同等である。つまり、差別化されていない。
4:製品・サービスを生み出す経営資源(ヒト・モノ・カネ等)が他企業へコスト無く移動ができる。
5:情報が完全に対称

つまり、この状態では長期的に市場が均衡していくわけである。そのため企業はいかに完全競争から脱し、一種の独占状態を作ることで超過利潤を生み出していくことになる。逆に言えば完全独占となればすべての超過利潤を1つの企業で享受することが可能ということになるだろう。完全競争および完全独占の状態は現実には存在しないが、そのグラデーションにおいてどこに位置するかで、そもそも生み出せる超過利潤が変わっていくことになる。

米国の国内航空業界の例では規制緩和により参入障壁が下がり(完全市場の前提2)、100社以上がひしめき合い(完全市場の前提1)、なおかつ国内線程度の移動ではサービスの差別化が図れない(完全市場の前提3)という状態で、完全市場に近い状態となっており、必然的にその中で生き残るには価格競争(安売り)してことでの差別化しかできないことになる。その結果、高い売上・利潤を上げられず、産業構造的に儲かることができなくなってしまっている。

前提2における参入障壁を高くする要因としては、規制などによる要因や規模の経済による要因があるだろう。前者であれば特定の免許がないとできない仕事・業界が該当するし、後者は大規模な設備投資が必要な業界が該当する。特に大規模設備が必要な業界においては資本体力のある大企業であったり、国からの支援があるような場合でないと参入が難しいといえるだろう。

昨今のGAFAなどのプラットフォーマーもある意味独占を作り出すことで超過利潤を得ている企業と言えるだろう。特にこれらにおいては、ネットワーク効果によりユーザーが増えれば増えるほどユーザー自身の利得も増え、結果雪だるま式にユーザー数が増えていき、結果的にプラットフォーマーとして多くのユーザーを獲得して独占に近い状態にもっていくことができるのである。ここにおいて、前提3の差別化は特別な資産や技術もさることながら、ネットワーク効果により急増したユーザー数そのものが他社との差別化要因となっているともいえる。

自分としての考え

完全競争において超過利潤が発生しないのはミクロ経済的な考え方もそうだが、市場からすれば均衡状態となることにより、超過利潤が生み出されないためとも言える。つまり、業界として均衡状態から脱しないと、そもそもの市場として利潤を上げられる機会が得られないと考えられる。そのため参入する業界を見誤ると、自社ではどうしようもできない脅威にさらされたままジリ貧を迎えていくであろう。

また、参入障壁の高さを作るにあたって、規模の経済やネットワーク効果による差別化はある意味大企業の強みである。もしかすると、ものすごい特殊な技術とかを追い求めるより、実は規模の経済を活かして設備や体制を強化したり、ユーザー数の増加を求めていく方が、大企業が目指す差別化の道としてはふさわしいとも言えるかもしれない。そこに至るのに必要な技術や知見は、GAFAのようにそれに特化した中小企業を買収することで手に入れていくことで獲得していき、そこからどんどん巨大化していくことが大企業の行き方なのかもしれない。

第二章 SCPを前提としたフレームワーク

概要

有名なファイブフォース分析を例とする。以下がファイブフォースの該当となる。

・参入障壁
・競合関係
・顧客の交渉力
・売り手の交渉力
・代替製品の存在

これらの要素において他社に負けなければ、相対的にその業界での持続的な優位性を獲得することができ、それが差別化=完全競争からの脱却に繋がり、高い収益が上げられると言える。

また、SCPを基礎とした考えにジェネリック戦略がある。端的に言えば薄利多売としてコストメリットを打ち出すか、差別化・高付加価値化をして厚利少売とするかである。薄利多売をしていくにはウォルマートのような巨大資本の下、多額の投資で効率化を行い平均費用を下げていかないとそこでのプレゼンスを発揮できない。そのため、一般的な企業、とりわけ中小企業であるほど、差別化集中戦略を前提とした経営を行っていく事が必要となる。

自分としての考え

自社におけるファイブフォースはどうなるか?

・参入障壁
→金融業界に関する知見や強いリレーションが求められる業界。ITスキルだけではなく金融系リテラシが高くないと入り込めないのでそれなりに参入障壁は高いと考えられる。ただし、逆に金融系企業がITスキルを獲得すれば入り込める余地が生まれてくる?特に最近は金融機関においてもITパスポートの取得を推進するなど、ITに対するスキル向上を戦略的に行っている金融機関は増えている。(といっても、ITパスポートレベルであればやはり我々の専門性には及ばないが…。)その他、例えば米国ではBloombergやBlackRockといった金融企業が自社ソリューションの一貫として、システムも提供しているような気がするが、こういった競合が日本で生まれる可能性はあるかもしれない。

・競合関係
→大手ITのベンダを初めとした競合他社はいくつかあるだろうが、ある程度市場を絞っていけば、競合はせいぜい数社(数サービス)と思われる。飲食業界や小売業界のように数十レベルということは無いので、比較的競合は少ない環境と思われる。それはやはり参入障壁の高さにも起因しているであろう。

・顧客の交渉力
→自社で提供するような業務システムは切り替えをしようとすると年単位での期間と、それ相応のコストが発生する。そのため顧客としては当社製品をやめるにあたって多大な犠牲を払う必要があり、スイッチングコストが高く、相対的に顧客交渉力は弱いと言える。しかし、それは他社製品を使っている状況でも同じことが言えるため、いかに当社製品を使わせてホールドするかが重要となると考えられる。

これに対する1つの方法としては複数ソリューションをまとめて導入してベンダーロックインしてしまうことである。当社ソリューションで統一していくことで顧客の利便性は高まる一方で依存度も高まり、また、この状態だと個別システムだけ切り替えることも難しくなり、その結果交渉力は弱まっていくと言える。

そもそも顧客に利用してもらうためには差別化が必要となり、他社との比較における当社の強みを見出していかないといけない。単にシステム的な機能充足だけではなく、安定性や性能、セキュリティといった非機能や、サポートの手厚さ、トラブル時のフォロー体制などサービストータルとしてどこに強みを見出していくかを考えていく必要があるだろう。

・売り手の交渉力
→当社からする売り手は協力会社となるだろう。つまりITサービスにおける調達は人的資本となるため、必然的に業務を委託するパートナー企業がその供給元、つまり売り手となる。ITピラミッド構造では当社はいわゆるTier1に位置するため基本的に売り手の交渉力は弱いと考えられる。特に当社ソリューションは未だにレガシーシステムが動いたりしており特殊技能要件が低く、それはつまり売り手側に唯一無二の技術や強みが生まれにくいとも考えられる。その分だけ何かあれば簡単に協力会社を切り替えられるということでもある。(そもそも当社の設計思想としても、製造工程を標準化して誰でも開発可能となるような、工場における労働集約的な体制構築をしているため、相対的に売り手を弱くすることを是としているはずである。)

・代替製品の存在
→代替ソリューション自体は存在するが、数そのものは数製品程度であり、また、顧客の交渉力で記載の通り、当社が提供するような業務ソリューションはスイッチングコストが高く、簡単に乗り換えられるものではない。そのため代替製品の存在という点においても一定の優位性があると考えられる。

第三章 RBV

概要

SCP理論においては業界構造という外部要因を主軸においているが、リソースベースドビュー(RBV)では内部要因(リソース:人材、ナレッジ、技術、ブランド等々)に主軸を置いて優位性を検証する考えとなる。

完全市場の前提4「製品・サービスを生み出す経営資源(ヒト・モノ・カネ等)が他企業へコスト無く移動ができる。」が成立している場合、複数企業においてリソースが長期的に均衡状態となり、経営資源に差が生まれないということになる。それはつまり、そこから生み出される製品やサービスの差も相対的に生まれないということになるので、差別化ができず完全市場となっていくであろう。逆に言えばここを崩してその企業独自の経営資源があれば差別化が図れるということである。

ただし、単に経営資源があればいいわけではなく、以下のような模倣困難性を帯びることでただの差別化にとどまらず、「持続的な優位性」を保つことができる。つまり、VRIOフレームワークである。以下がVRIOフレームワークにおけるポイントである。

・蓄積経緯の独自性:その会社が時間をかけて蓄積していったものほど模倣が困難になる。
・因果曖昧性:因果関係が曖昧な経営資源があるほど、「なぜその強みがあるのか」が分からなくなり、模倣が困難になる。
・社会的複雑性:経営資源が複雑な人間関係や社会関係によって形成される場合、その複雑性の模倣は困難である。

自分の考え

自社における強みを内的要因で考える。一般的に言われているようなものは以下であろう。
・高レベル人材の存在(専門知識、プロジェクト遂行力、長時間労働を厭わずにやりきる風土)
・長年にわたり培った開発やPMのノウハウの保有
・主に金融系に対して業界標準となるITソリューションの提供
・各企業を第三者的に取り持ち、標準化や業界のリーダーとなれる立場
・各企業や協会との繋がり、そこから得られる情報の密度の高さ
・上記を備えているということそのものが「ブランド力」

完全市場の前提4を鑑みればこういった強みを離さないことが、差別化要因となれるであろう。また、これらの強みは数十年に渡って築き上げたものであり、蓄積経緯の独自性や因果曖昧性においても、競合からの参入は難しい(持続的な優位性が確保できている)と言えると考える。

ただし、こういった優位性に甘んじること無く、企業としては常に新しい可能性を見出したり、またグローバルなど新たな市場への拡大は引き続き模索していかねばならないだろう。

第四章 シュンペーター型の競争

概要

バーニーが提唱するIO型の競争はSCPを前提としており、いかに参入障壁を高くして完全競争から脱するかで収益を高めていくかという戦略となる。チェンバレンが提唱するチェンバレン型の競争は、最終目的は完全競争からの脱却ではあるが、そこにいたるプロセスとしてはRBVを前提とした内部要因に依っている。

このどちらにも当てはまらない競争がシュンペーター型の競争となり、不確実の高さを前提としている。将来を完全に予測できるのであればその予測通りやればいいだけだが、そうはいかないため、計画や戦略、ビジョンが必要となっていく。単に高い参入障壁を築こうにも、制度の壁や経済の壁、技術の壁など、こういった不確実性が高い業界においては、とにかく試しにやってみて変化に柔軟に対応することが重要となる。

自分の考え

自社を取り巻く金融業界の環境は、コンプライアンスの厳重化や新NISAなどの制度改正あるものの、長年に渡って培ってきた法整備や取引ルールが存在しており、不確実性は相対的に低い業界と考えられる。急にドラスティックに制度が改正されることもなければ、技術が日進月歩で陳腐化することは無いであろう。(もちろん、技術のキャッチアップはそれはそれで必要であるが。)

とはいっても、それはあくまで自分の目に見えている範囲での観点である。もっと広く見渡せば、AIの台頭による大幅な技術進歩であったり、暗号資産のような法整備やその扱いが不透明である投資資産など、まだまだ今後どうなるかわからない分野もあるだろう。このような不確定要素極まりない分野にも積極的に進出しく上ではシュンペーター型の競争へと巻き込まれていくことが考えられる。

第五章 情報の経済学

概要

完全市場の前提5:情報の非対称性 に対する完全競争の打破である。情報が完全に対象であれば物価はすべて均衡し、超過利潤は発生しないはずであり、多かれ少なかれ情報の非対称があることで超過利潤が生み出されることになる。ここではアカロフのレモンのようにそれがモラルハザードに繋がり、結果業界を衰退させてしまうこともあるだろう。これがアドバースセレクション(逆淘汰・逆選択)である。

例えば就職市場では、企業は学生の全容を知らない。他方学生は自身の本当の能力や性格を知っている。これにより企業は学生は面接での脚色(能力以上の誇張)を疑い、良い就労条件を提示できないであろう。結果的に企業と学生のミスマッチが生じて早期離職へとつながる。

保険市場では、病気になりやすい人、事故を起こしやすい人ほど保険に入りたいはずである。しかし、保険会社側はその人がどの程度病気になりやすいのか、事故を起こしやすいのかは完全には把握できない。そのため保険会社としては安全性が高い人も高い保険料を設定せざるをえなくなり、結果、安全性が高い人からすれば割高となるので、保険金支払が発生しやすい安全性の低い人ばかりが保険契約を結ぶことになる。

企業買収においても、買収される側は自社に不利な情報は隠して、なるべく良い条件で
買ってもらおうとするであろう。そうすると自社に不利な情報は極力隠すはずであり、これは買い手からすれば"高い買い物"となってしまうリスクを孕んでしまう。そのため、これを解消するために、買収にあたっては十分はデューデリジェンスを行い、情報ギャップを解消していくことが重要となるであろう。

スクリーニング:
アドバースセレクションが発生する中でそれを回避する方法である。例えば保険の例であれば、①保険料は安いが保険金も安い というプランと、②保険料は高いが保険金も高いというプランを用意した場合、安全性の高い人は①を選ぶだろうし、安全性が低い人は②を選ぶことになるであろう。これにより、安全性の高い人低い人双方を取り込むことができる。

シグナリング
情報優位に立つ側が情報下位に対して情報発信することである。就職市場における代表的なシグナルは学歴である。つまり、学歴を提示することで一定の能力や勉学に励む真面目さがあるということを示すことができるため、企業側は客観的な指標として評価することが可能となる。

また、情報の非対称性は完全競争を破る条件となるため、収益の源泉となりうるであろう。たとえば上場企業はさまざまな開示が求められたり、ニュースに取り上げられる機会も多いため、比較的情報が対称的である一方、非上場企業は情報が閉鎖的であり、非対称が強くなる。M&Aの現場ではそのような状況下において、非上場企業の情報を入手しそれを正しく目利きすることで、なるべく安く企業買収し、その後にはその企業のポテンシャルを引き出していくことで、将来的に自社全体として高い収益の源泉とすることができるであろう。

自分の考え

投資の世界においては、大型株より小型株の方が高いαを生み出すことが統計的に知られている。それは大企業に比べて情報の非対称性が強く不確実性が高い一方、その目利きを適切に行えば大企業よりも大きな超過収益が期待できるためである。

そのため、ベンチャーキャピタルのような新興企業に対して投資を行う企業は、今後大化けするであろう企業を見定めて、そこに投資を集中させることで莫大な利益を生み出すことを目標としている。それはつまり情報の非対称性から生み出されるアルファを取りにいっていると考えられる。もちろんそこにはアドバースセレクションによる不利益を被る可能性があり、そのリスクを背負うことがリターンの代償となるわけである。このリスクを極力減らしていけるかが腕の見せ所なのであろう。

第六章 エージェンシー理論

概要

自動車保険におけるモラルハザードを考える。保険契約をすると、万が一の事故を起こしても金銭的に補償がされるため、事故を起こすことによるデメリットが緩和される。これが行き過ぎると、「事故を起こしてもいいや」という心理状態を生み出し、結果、本来事故を起こさないような安全性が高い人であっても、事故を引き起こしてしまう可能性がある。安全性が低い人であればなおさらであろう。これは保険会社からすると本来払わずにいい保険金を支払う必要が出てしまうこととなり損失へとつながる。これがモラルハザードが抱える問題である。これはプリンシパルエージェント理論といったりもする。

一般企業において考える。上司と部下の関係において、上司は部下に対して懸命に働くことを要求するが、部下は「上司の見てないところであればサボろう」といったインセンティブが働く。これは情報の非対称性により発生する。同様のことが上位レイヤーである経営者と部長間、株主と経営者間でも起こりうるであろう。

例えば株主と経営者という意味では、株主は経営者に対して高い利益を上げてもらいたい(株主価値を最大化してもらいたい)と考えているわけだが、経営者としては「高い給料もらって贅沢したい!」というように株主の意図と異なる可能性を秘めている。まぁここまで俗な例は極端だとしても、一般的に株主は短期的な利益追求となる一方で、経営者として多少赤字が出てもいいから長期的な成長を見越した戦略をうつ、というような双方の思いがすれ違うということはあり得るであろう。

その他にも、株主はリスクを取って大胆な施策を売って欲しいと考える⇔経営者は安全に、順当な成長戦略を描きたい、というような例もあるだろう。所有者である株主からすればあくまで会社は1つの投資先。仮にそこが潰れても大きな痛手は無い一方、会社側からすれば潰れたら人生の終わりのためである。なお、これらは倫理的な問題ではなく、あくまで互いの目的相違による仕組みの問題として考えるべきである。

これらを解決する手段の1つとして考えられているのが業績連動報酬やストックオプションである。株主としては株式価値を最大がしてもらいたい、これに対して経営者報酬も株式価値に比例するようにすれば、お互いの利益が一致するわけである。ただし、これが行き過ぎると、粉飾決算のような不正へと繋がる可能性も出てしまう。不正をしてでも企業価値を上がったように見せることで、経営者・株主双方にメリットが出てしまうというモラルハザードを引き起こすのである。

そもそも、エージェンシー問題の根本の問題は情報の非対称性なので、情報の非対称性を無くすことが解消への手段となる。上司と部下の関係であれば適宜部下の活動状況を報告させる、直接上司が部下の様子をチェックする、といったことができるだろうし、会社であれば物言う株主による経営への介入であったり、社外取締役による外部からのモニタリング機能である。ただし、上司が部下の監視をするにも限界があるし、社外取締役も日本においては身内からの選出となり監査機能が働いてないという指摘もある。

また、所有と経営の分離によりお互いの目的が不一致となるのであれば、同族企業のように所有と経営が一致すれば当然目的も一致するはずである。同族企業によるデメリット(後継者が必ずしも有能とは限らない、組織が硬直化する等)はあるものの、これを適度に解消しつつ同族企業のメリットを活かすの婿養子経営者となるのであろう。

自分の考え

組織運営におけるエージェンシー問題として、マネージャーがいかにコストをかけずにメンバの稼働率を上げるかは、マネジメントにおける重要課題の1つであろう。マイクロマネジメントで逐一行動監視をすれば、それに応じてメンバの稼働率は上がるであろうが、マネジメント側の負荷が高い上に、メンバからすれば窮屈感を生んでしまうため、伸び伸びとした働き方や斬新なアイディアを生むような環境を作り出せないだろうし、かと言って放任主義だとマネジメント側は楽だしメンバ側も楽になるが、稼働率を低下させて組織を堕落させてしまう。これらのアメとムチを適度に使い分けで、情報の非対称性をある程度解消しつつも、モラルハザードを起こさないよう制御することが求められる。

第七章 取引費用理論(TCE)

概要

OEMなど他社へ外注をする場合、そこで得られるメリットとしては、設備投資や人件費などを削減し、他社のノウハウをそのまま獲得できるということである。しかし、これが行き過ぎると売り手の交渉力が上がってしまい、その外注先がいないとビジネスが成り立たなくなってしまう可能性が生じる。とくにその外注先が唯一無二の技術やコアコンピタンス保有していた場合、他社への乗り換えもできず、ロックインされた状態となってしまうだろう。これをホールドアップ問題という。

米国自動車メーカーであるGM社とその外注先のフィッシャーボディ社の関係が当てはまり、当初は小さい取引から開始したものの、どんどん需要が拡大したことでどんどんフィッシャーボディへの外注量が増えていった。それによりフィッシャーボディ側にノウハウがたまり、フィッシャーボディがいないとGMとして車が作れない状態となってしまった。これをわかった上でフィッシャーボディは大幅な値上げをしていったことで、超過利益を獲得していったのであり、GM社側すれば高いコストがついてしまったということになる。最終的にはGM社がフィッシャーボディ社を買収して自社の一部としたことで、GM社からみたこの問題は解決に至った。

ここで海外展開を考える。海外展開するに当たっては、輸出取引<ライセンシング<共同開発<ジョイントベンチャー<企業買収の順番でコストが増加していく。ただの輸出取引であればその取引時点に発生するコストだけだが、最後の買収となると買収そのもののコストやその買収した企業を運営していく各種コストもかかっていくことになるだろう。ただし、市場の複雑性や予測困難性や売り手の交渉力が高くなればなるほど、ただの輸出取引ではなく、そういったコストをかけてでも買収側の方へシフトをしていくことが結果的にビジネスをする上でのコストが抑えられると考えられる。

ただし、昨今はITの発展により海外展開コストが大きく下がっている。グローバル化が推進し、ベンチャー企業がいきなり海外進出をするということが珍しくないといえるであろう。それまでは海外で何かをしようとすると物理的な距離による成約や、手続き面における障壁などがあったものの、そういった障壁が低くなった今は誰でも国際的な取引が可能となる。となると、コングロマリットのような巨大企業は大きなコストを掛けてその巨大性を維持する必要性が薄れ、それぞれの事業に分かれて専門性を磨いていき、個別に取引を行っていくほうがコストが低くなる、という先述とは逆行する流れが出てくるであろう。

自分の考え

つまり、IT化やグローバル化が進むと完全市場に近くなっていくので、そこにおいては完全市場に則った企業構造より、差別化を行うことでの完全市場条件を崩していくことが重要になっていくということであろう。

また、ホールドアップ問題については、ITベンダーこそよくある話で、Office展開をするマイクロソフトであったり、大規模な業務システムにおいてはベンダーロックインが常である。逆に言えばIT企業側からすればいかにロックインできるかが鍵となる。

「第二章 SCPを前提としたフレームワーク」の自分の考えに記載したVRIOに基づいた内容の具体例がこの章とも言えるであろう。

第八章 ゲーム理論

概要

前半の詳細は略。要はナッシュ均衡は必ずしもパレート最適にならないというよくあるゲーム理論の例についての記述。

この中において、ベルトランパラドックスがある。一般的に寡占企業となれば、お互いが価格を調整してそれぞれにとって高い利潤を生み出せる価格を協定していくと考えられているが、ゲーム理論で考えた場合はナッシュ均衡はむしろ互いが低価格戦略を打つ点に収束するということである。つまり、一社であれば独占価格であり、二社であれば寡占価格になるかと思いきや、二社になった時点で完全競争価格(均衡価格)となるのである。(詳細なペイオフマトリクスは略)

これは日本における牛丼チェーンなどの例があるであろう。著名な牛丼チェーンは数社程度である意味寡占状態のはずだが、一度ある会社が値下げを始めるとそれに追随して値下げ合戦が始まってしまい、結果、超過利潤が生み出せない均衡価格へと近づいていってしまう。

また、エレベーターの右に寄るか左に寄るかは、ナッシュ均衡が2つある状態である。どちらが良い悪いではなく、ある意味偶然的にどちらかに決まってしまう。不文律であったりマナーであったり、合理的な説明がつかない事象についてはなんらかなのゲーム理論によってナッシュ均衡が達成された状態と言えるのだろう。

自分の考え

対人関係や交渉事もゲーム理論で考えることができる。自分がこれをしたら相手はどう出るか、相手がこれをしたら自分はどう出るか、それぞれにおける両者の利得はどうなるか、これを常に考えておくことでお互いにとってのパレート最適を探ることがいわゆるwin-winの関係と言えるであろう。それにおいては当然自分だけ得してはいけないし、逆に相手だけ一方に得させてもいけないし、何よりもお互いが損をする状態となるのを一番避けなければならない。

よくビジネスにおいて「相手の立場になって考える」というのがあるが、まさにこういうことを言っているのであろう。ここで勘違いしてはいけないのは、倫理的な話でよくある「相手の気持ちになって考える」とは似て非なるものであるということである。決して相手の気持ちに寄り添うことをゴールにしているのではなく、パレート最適を探る手段として相手の立場をわきまえた状況把握や心理状態の把握をしていかないといけないということなのである。

第九章 ゲーム理論2

概要

ゲーム理論における基本的な考えは前章で記載した通りだが、前提を少し変えると異なる結果となる。前章は同時ゲームを前提としたが、逐次ゲームとした場合は、先手が結果を左右する。ペイオフマトリクスは省略するが、例としてボーイングエアバス社の例がある。大型機の需要が高まる見込みの中、大型機の開発を進めるか現状のままとするかの決断をする際、お互いが大型機の開発を進めると供給過多になり、双方の利得は薄くなってしまう。ここで先に手を打ったのがエアバスであった。次世代大型機の計画調査に乗り出すというアナウンスを出したことで、ボーイング側はそれをうけて大型機の開発は中止することとなった。その結果、エアバスは需要増加の機会を獲得することができ、他方ボーイング社は大型機に投資する予定だった資金を中型機への強化へと繋げていくこととなった。

ここで気をつけないといけないポイントが2つある。1つは逐次ゲームを生み出すためには行動をコミットメントしないといけない。エアバスの例でいうと、大型機開発を進めるアナウンスをしておきながら、やはり撤退しますと逃げてしまうのは名声の失墜や関係各社への違約金支払いなど発生するおそれがあるため、不撤退であることの確信が高まり、その結果ボーイング社としては撤退という判断に至った。もう1つは逐次ゲームのリーダーサイドは強気な戦略をすることが基本的に有利となるということである。先程の例でエアバスが大型機から撤退する旨をアナウンスしても、それはボーイング側に大型機による収益増加チャンスを渡すこととなるため先手を打つ意味が無い。

また、ベルトランパラドックスが起きてしまう前提としては、短期的な目線となっていることが挙げられる。現実、寡占状態となっている米国シリアル業界では。一時期一社の値下げにより価格競争に陥ったことがあるが、結局それでは共倒れすることをお互いに気づき、結果価格を戻すこととなった。合理的判断をしていけば長期的にはベルトランパラドックスは解消されるわけである。

自分の考え

対人関係においても逐次ゲームをどうコントロールするかが重要となるであろう。自分の都合いい方向に話を進めたい場合には先手を打って、なるべく高い利得となるよう導かねばならない。相手側に主導権を渡してしまうと、自分にとって高い利得を得られないシナリオへと陥ってしまう可能性を高めてしまう。

事業判断のような場合は主導権を握ることでのリスクを対処していく必要があるが、個人間・対人における交渉においては主導権を握ることでのリスクよりも、主導権を握られることのほうがリスクが大きいと考えられる。

そのためにも、常に先読みを意識してパレート最適へと導いていくコミュニケーションコントロールが必要になっていくだろう。

第十章 リアル・オプション理論

概要

要はデシジョンツリーである。ある事業の評価をする際、今後市場が伸びていけば10年後に15%成長、他方思ったより市場が伸びなければ2%成長し、前者であれば大儲けだが後者は投資をペイできず赤字となってしまうという事例を考える。この時リスク回避的な保守的企業ほど撤退という判断を下すことが考えられるであろう。そのため、いきなり大きな投資をするのではなく、最初の3年間はとりあえず小規模に事業を始め、3年後市場の成長性が高いという確信を得られたら「オプションの権利行使」として全額投資をするということである。こうすることで、成長しなかったときのリスクをある程度抑えつつ、無事市場が成長した時にその収益を獲得できることが可能となるのである。そして、この手法は不確実性が高いほど(分散が大きいほど)価値が高まる。例えば成長すれば20%、成長しなければ-4%というような場合、オプションの考えがなければ即撤退だが、オプションとして投資を捉えると、うまくいく場合はその20%の成長を享受することが可能となるのである。一般的に不確実性が高いというのは上ブレも大きいことを意味するし、もちろん下ブレも大きくなるがその損失を限定的にできる効果も大きくなるので、オプションの価値が高まるのである。

ただし、リアルオプション戦略は必ずしも万能ではない。以下の条件がある時に有効となる。

1.投資の不可逆性が高い場合

例えば株式投資でこの考えを利用した際、もし下ブレした場合には株式を売却することで一定の損失を回避できる。それよりも、設備投資など下ブレした際に回収が難しい場合のほうが有用性が高いと言える。

2.オプションの行使コストが低い

これについても株式投資のような場合であればオプションを行使した際には株式の購入代金で済むが、企業買収や打規模設備投資などの場合は行使した際のコストが重たい。そのため、行使コストが低いことが見込まれる場合や、企業買収においては株式の買収ではなく新株予約権を利用する等で行使コストを下げる必要がある。

3.事業環境の不確実性が高い

これは先述の通りで、不確実性が高いほどオプションを利用する意味が出てくる。

また、不確実性が内外的な要因による場合はわざわざオプション戦略をとる必要性は低くなる。例えば買収予定の企業の技術レベルが不確実要素だとした場合、わざわざオプション型の戦略を取るよりも、素直に技術レベルを上げるための施策を打つべきであろう。つまり、デューデリジェンスを徹底するわけである。

自分の考え

とりあえず小さく初めてみる、というのはビジネスにおいて重要な規範の1つであろう。新技術活用のPoCであったり、マーク・ザッカーバーグが提唱する「Done is better than perfect」も似たような概念になると考えられる。

特に昨今の環境変化スピードが目まぐるしく早い世の中においては、慎重に投資判断を検討していたらその間にライバルたちに出し抜かれてしまうであろう。そのためコンパクトに早く仕掛ける重要性が高まっていると考えられる。意思決定に時間のかかる大企業においてはPoCの推進を制度化・仕組み化することや、そういった試みを行う子会社を設立して権限を移譲し、新しい技術の活用や新しいビジネスを小規模でいいから回していくということをしていくことが必要になるであろう。

第2部

第十一章 BTF

概要

経済学を前提とした理論においては人の合理性を前提条件においている。
しかし、実際には人は必ずしも合理的に行動を取る訳では無いし、その上でさらに以下3つの前提が置かれている。

1.意思決定者は無限に認知が可能。つまり、企業が取りうる選択肢およびそれによるライバル企業の出方などすべての選択肢を把握できていることが前提となっている。
2.最大化。つまり、多くの選択肢からどれが最大の利益を得られるかがわかっている。
3.プロセスを軽視。つまり、最大の利益を最適なプロセスで獲得する前提となっており、選択肢を右往左往して最大利益にたどり着くような経路を想定していない。

つまりこれらの前提を取り払って、より現実的なアプローチをしていくことがカーネギー学派が唱える企業行動理論(BTF)である。特にカーネギー学派では人の認知に限界があることを前提としている。人は行動によって認知を広げ、それによって得た知見を元にさらに広げ・・・というように徐々に範囲を広げることが前提となる。

具体的にはホンダの例がある。ホンダが米国市場でのシェア獲得した際において、BCGの分析では、日本で大量生産を行いコストリーダーシップ戦略で低価格の小型オートバイの需要を獲得した、という結論を導いているが、現実のホンダの幹部はそんなことは全く考えていなかった。これといった戦略無く、米国に進出してみたものの同社が提供する大型バイクは米国での長距離・スピードに耐えられず度々故障を起こした。しかし、近場を見てみると小型バイクを乗り回している中級層が多く、ここに需要があることを見込んで小型バイクを開発したらそれがヒットしてシェアを獲得した、というプロセスとなっている。つまり、BCGの分析は事後的に整合性があるものの、現実的な泥臭い意思決定プロセスが見落とされるのであり、企業行動理論はこのような知見を獲得していくプロセスに着目をする。


自分の考え

経済学アプローチは数学的に綺麗に記述するがゆえに、論理的には納得性が高く美しいものの、現実のビジネスにおいては結局人が人とどうしていくか、ということになっていくので泥臭く動くことが重要だったりして、そこにおいては必ずしも合理的な行動が取られているとは限らない。同じ価格の同じ商品が同じ距離に2店舗ある場合、経済学的に言えばどちらの店で買っても同じであるが、現実的にはこっちの店には知り合いがいるからとか、昔からこっちの店に行ってるからとか、なんなら特に理由は無くなんとなくといった理由で、偏って店が選ばれることだってあるだろう。

第十二章 知の探索・知の深化

概要

組織学習についての記載となる。組織学習における循環プロセスは以下の通りとなる。

1.組織・人・ツール(サーチ)→2.経験(知の獲得)→3.知(記憶)

1において人は知の探索を行い、組織として限られた認知を広げていく。具体的な活動がサーチであり、要はR&Dのような研究活動など、それまで企業として触れてこなった領域に対する認知を広める活動となる。

2においては1での経験を踏まえて新たな知を獲得する。「知の創造」として経験で得た知、既存知との組み合わせ等により新しい知を生み出すことや、「知の移転」により現地の合弁パートナーから海外の知見を得る、技術連携により他社から知識を獲得するといったもの、「代理経験」として同業他社の観察による人の振り見て我が振り直せといったことである。

3においては、これらで生み出された知を組織として保存していくプロセスとなる。メンバひとりひとりの記憶という意味での保存もあれば、書面や電子データでの保存もあるだろう。

本章では特に1について記載をする。知を探索することと知を深化することがある。知の探索は「現在の認知の範囲外にある知を探索し、それを自分の知と組み合わせて新しい知を生み出すこと。」、知の深化はそれを徹底的に深掘りし磨いていくことである。どんな優れたサービスや製品も、既存の知をもとにした組み合わせであり、純粋な意味で0から生み出されるものは無いであろう。ただし、企業、特に大企業においては知の探索より知の深化を追求してしまう傾向がある。知の探索を行うには十分な時間とコストが必要となり、1~2年で成果を求めようとしてもうまくいかない。他方、知の深化はすでにある知、企業的に言えば今確実に儲けられる目先の事業に対してより磨きをかけていくこととなるため、どうしてもそっちの方に目が言ってしまいがちとなるためである。

企業がイノベーションを生み出すにはこの両方の知を意識して伸ばしてかねばならない。それこそが両利きの経営である。

自分の考え

知の探索の重要性を軽視する人は決していないであろう。これを探求するがために多くの企業、特に新規市場開拓や今後の中長期的な成長をしていきたい大企業は「イノベーション戦略部」「新事業開拓部」的な部を作って知の探索を行っていく。しかし、知の探索から収益性ある事業へと昇華させることはそう簡単ではなく、さもすれば回りからは「あの部署は全然成果が出てないけど何やっているんだろう?」と、冷ややかな目で見られてしまいかねない。

経営としてはこういった事業開拓においてはサンクコストを覚悟の上で投資していく必要があるだろう。また、GAFAのような大手IT企業のように積極的に買収していくことで新たな知を獲得していくことも1つの手段であると考えられる。これらの買収により得た知と既存知を組み合わせて、より強固な製品・サービスを生み出すことで、より企業としての成長へと繋げられる。日本ではニデック(旧日本電産)のように買収に買収を繰り返すことで急成長している企業もある。ただし、企業買収には資金面だったり、いざ買収してもうまくシナジーが生み出せないといったそれ相応のリスクもあるため、入念なデューデリジェンスの上で意思決定していく必要がある。

第十三章 知の探索・知の深化②

概要

知の探索と知の深化を求める両利きの経営をするにあたって必要な要素について記載する。

戦略レベルではオープンイノベーションやCVC投資がある。オープンイノベーションにおいて戦略的に他社や研究機関と繋がりを持つことで知の探索を進めていく。また、CVC投資において、特に大企業がスタートアップ企業へ投資することで新しい知見を手にすることも可能であろう。欧米ではCiscoMicrosoftIntelといった様々な大企業が積極的にCVC投資を行っており、日本の大企業もこれに追随している。

組織レベルでは知の探索を行うための部門の設立がある。ただし、収益性の高い事業に比べれば芽が出るまで時間がかかるため、成果が出ないと思われてしまい、その結果予算も回らなくなるという悪循環となる危険性がある。そのため、完全に組織として切り離して独立した組織としつつ、なおかつ上位層レベルではその組織が孤立しないよう既存組織との交流を促すことが重要となる。

個人レベルでは、人材のダイバーシティである。人材が多様であるほど、それぞれの人が持つ知も多様性が生まれ、必然的に知の探索が広がっていくであろう。しかし、女性登用・外国人登用というように属性に頼ったダイバーシティに囚われてしまい、本来果たしたい知の探索の効果が発揮できていないのが実情である。
ただ、1人の人がさまざまな知見や経験を持っている、ということであれば十分十分にダイバーシティとしての強みを発揮できるであろう。例えば複数の業界を経験しており広い視野で物事を捉えられる、というような場合である。これが個人におけるダイバーシティである。
また、知の探索をどの範囲まで広げるかは課題の一つであろう。半導体の研究をする企業(人)がメソポタミアの古文書についての知見を広めてもあまり有用ではないだろう。しかしかと言ってあまりに探索の幅を狭めてしまうと、広い視野や柔軟な発想が生まれてこない。優れた経営者はグローバル経験等を通じてそれまでの常識に囚われない発想を得ることで成功をしてきた。そのため、可能であればなるべく広く知を探索していくべきであろう。

自分の考え

戦略レベルや組織レベルについては前章にて記したため個人レベルについて考えてみる。
自分は学生時代は物理学専攻の完全な理系であり、大学においても一般教養などは卒業に必要な最低単位だけ取るという不真面目な学生であった。その後社会人になり、IT企業に勤務することなったため、情報処理に関する資格取得などを通じて情報系の知識も獲得していったが、やはりそれも理系に関する知見であり、特別自分の視野が広まったという感覚は無かった。
そのような中で自分の知見を広めるきっかけとなったのが、経済学と世界史に関する知識である。経済学は証券アナリストの資格取得を通じて、世界史はYouTubeの動画や各種書籍などを通じて教養として身につけたが、これらを学ぶことで今までなんとも思わなかったニュースや日経新聞の記事についての理解の解像度が明らかに高まった。もちろん、これらが直接本業のITスキルそのものには関係しないが、仕事という意味ではITという枠内ではなく、広くビジネスとしてのあり方や社会との関わりを考えられるようになった。
このように知の探索を常日頃から行い、高いアンテナを張っておくことが、ゆくゆくは何かの役に立っていくのであろう。

第十四章 組織の記憶の理論

概要

組織として知識を獲得した後はそれを適切に保存し、そしてそれを適切に引き出せるようにする必要がある。保存においては個々人の脳内に記憶するというのは当然として、書類やデータベースに保存するということがあるだろう。そしてそれらを標準化した手続きに落とし込む、つまりルーティン化するということがゴールとなる。知の引き出しにおいてはシェアードメンタルモデルとトランザクティブメモリーシステムがある。

シェアードメンタルモデル(SMM)は組織のメンバー間においてどれほど認知体型が揃っているかということである。例えば、そもそもの作業目的は何か、トラブルが合った場合の対応策の優先順位は何か、といった各行動についてメンバー間で共通認識があるかということである。これらの共有度が高いチームほど、タスクの効率性つまりパフォーマンスが高くなると言えるであろう。具体例でいうとトヨタのジャストインタイム(JIT)方式や自"働"化といった仕組みであり、トヨタ社内においてはこの考えが浸透していることで、当たり前のようにJIT自働化に沿った効率的な運用ができているということになるのである。

トランザクティブメモリーシステム(TMS)は、端的に言えば組織メンバーが「他のメンバーの誰が何を知っているか」を知っていることである。英語でいうとWhatを知るのではなく、Who knows whatを知るということである。ひとりひとりの認知には限界があり、ましてや企業として組織が大きくなるほど分業化が進んでいく中でひとりがすべてを把握するのは現実的に無理がある。その中で「XXについては彼に聞けば良い」「XX部のAさんがこれについて詳しい」といったことから情報を辿っていけば、必然的に1人ですべての知見を得ようとする負荷は必要がなくなる。
こうすることで分業化した各組織で知見の専門性を高め、それらの情報の統合はTMSを駆使することで効率的に行えるわけである。

さらにこれを個人にTMSを集約させていく考えがある。つまり、「誰が何を知っているか」を知っている専門家ということであり、何か困ったらこの人に聞く、ということである。知のブローカーの専門職ということである。このような「誰が何を知っているかを知っているおじさん」の存在が組織としての知の引き出しに貢献することで、よりパフォーマンスを高めていくのである。

自分の考え

社内における立場が上がり、リーダーやマネジメント層となり、抱えるプロジェクトが大きくなるほど自分の知らない分野についても把握して物事を判断していかなければならない。そのような時に1からその物事について調べて学ぶのは能力的にも時間的にも限界があるため、その手の有識者を捕まえて適切にヒアリングをして情報を引き出して効率的に仕事を進めていくスキルが重要となっていく。

そのため、組織において「誰が何を知っているかを知っている」という情報はこれとなく貴重なものとなっていくであろう。もちろん、各自のプロフィール情報を検索できる仕組みなどを構築すれば、そういったところから辿ることも可能であるが、知識を引き出す相手の適切性が見極められない。つまり、知識がある人でも教え方が下手だったり、傲慢で性格に難がある人だったりすると、聞いたところで適切に知を引き出せないわけだが、それはプロフィール情報の検索ではわからない。こういったことを含めて「誰に聞けば良い」を的確に示唆する役割は組織の知の活用にあたって重要な役割を果たしていくのであろう。

第十五章 組織の知識創造理論(SECIモデル)

概要

第十二章における「1.組織・人・ツール(サーチ)→2.経験(知の獲得)→3.知(記憶)」の2についての記載となる。なお、前章で先に3についての解説をしている。この2の知の獲得に関する理論野中郁次郎教授によるSECIモデルである。SECIはセキと読む。まずこれを理解するには暗黙知形式知についてを知る必要がある。

形式知は「言語化・記号がされた知」のことで、言葉、文章、プログラミング、数式、図式などを指す。他方で暗黙知は「言語・文章・記号などで表現が難しい、主観的・身体的な経験値」のことである。さらにこれを細分化すると2つあり、1つは個人の身体に体化されたもの、もう1つは個人そのものに体化される認知スキルである。前者は野球のバッティング技術やヴァイオリンの演奏技術のようなもので、身体の動きをそのまま「脇を締めて腰を捻って」と形式知を伝えたところで習得することができない。何度も繰り返し練習し体に染み込ませないと体得ができないであろう。後者はひらめきや玄人の勘といったものである。「なぜそう思うのか」と言われても、勘としか言いようがないというようなもので、それまでの経験や知見が体化されすぎて言語化形式知化ができない状態となるものである。

SECIモデルにおいては①共同化②表出化③連結化④内面化というサイクルで知識の創造が行われる。

①共同化(Socilalization):暗黙知暗黙知
暗黙知をその組織内にて他の人と共有することである。例えば熟練の職人が若手に手取り足取り教えるといったことや、先輩の働く姿を見せて学ばせるということである。さらにこれを共感することで腑に落ちさせる必要がある。単にマニュアルやパワーポイントで形式知化された資料を見せてもピンと来ないであろう。そのため、ときには1対1で徹底的な対話を通じて共感することで暗黙知を共有していく必要がある。

②表出化(Externalization):暗黙知形式知
暗黙知を共有してもそれを共有化した間でしか使えない。そのため、形式知化して顕在化する必要がある。代表的なのが言語化であろう。

③連結化:形式知形式知
表出化した知が集められて組み合わせられて連結し、組織の知として伝えられる必要がある。具体的にはマニュアルや設計書といった体系化である。ただし、現場のオペレーションはマニュアル化で十分ワークするが、会社理念や戦略のような認知的な暗黙知はマニュアルでは伝わらないため、物語ることが必要である。つまり、ライブ感を持ってきちんと伝えることが必要で、経営者の語りで現場に浸透させていくのである。

④内面化:形式知暗黙知
具体的な行動やアクションである。連結化された知識を行動に移していくことで組織として昇華していくのである。そしてこれによって積み重なった経験が暗黙知となり、また共同化→表出化→連結化→内面化・・・と繰り返されるのである。

自分の考え

SECIモデルは抽象的で難しいと感じる。それはSECIモデルそのものの形式知化の難度が高いからであろう。いわゆる経験や勘といった言語化や図式化ができない認知的な概念を組織として継承していくことをモデル化しているため、腑に落ちないと感じるのはどういうところであろう。(たとえば連結化で経営者が語ることが重要、というのも言わんとすることは分かるし、現実的に単に感情も思いも見えてこない文章を単に見せるより、思いを載せて語るのが大事というのは分かるのだが、理論として落とし込むとなった場合には何か物足りない気がしてしまう)

第十六章 認知心理学ベースの進化理論

概要

組織で獲得した知が最も最適に活用されているのがルーティンである。ルーティンというと一般的には単調な作業というようなネガティブなイメージを持たれてしまうが、ここでは組織としてのルーティンとして、繰り返される行動パターンと捉える。獲得した知を、組織における標準化された手続きとして回していくことで認知に対する負荷を下げることができる。その際には暗黙知を共有し暗黙知をベースとした行動パターンへと落とし込むのである。一言で言えば阿吽の呼吸である。例えば、ある業務をするにあたってソフトウェアを導入する際、ソフトウェアの使い方そのものはマニュアルがあれば共有が可能であるが、そのソフトを使ってどのように仕事を進めていくか、という手続きはマニュアル化はできず、ソフトを使って実際に仕事を進めて業務フローを洗練させていかないといけない。やがてこれが暗黙知化し、ルーティンとして根付いていくのである。

こうして得たルーティンにより以下のような効果が得られる。

1.安定化:ルーティンにより業務プロセスは平準化され、将来予測やメンバ負荷の比較が容易となり、その結果管理負荷が軽減する。
2.記憶:ルーティンにより組織における知、特にノウハウといった暗黙知をその行動様式として保存することが可能となる。
3.深化:ルーティンにより業務が効率化すれば組織スラックが生まれ、その結果新たなる知の獲得へと繋げられる。

このように、ルーティンというのは必ずしもネガティブなものではない。しかし、もちろん一般的に「ルーティン」と言われるときのようなネガティブな効果も発生しうるので注意する必要はある。例えば、紙を使った業務でルーティン化された業務があった場合、その組織にとってはそれが最適解となってしまっているわけだが、抜本的に業務をIT化してペーパーレスを推進するというような場合には、こういった既存ルーティンが邪魔をする可能性がある。そのため、その会社の新規事業として新しいことをやるにしても、既存のこういったルーティンに則って紙ベースのやりとりをしたり、稟議のためのスタンプラリーをしたり、といった行動様式が残ったままだと抜本的な改革が難しくなる。新規事業の構築などをするにはゼロベースで作り上げていく覚悟が必要となっていくのである。

自分の考え

ルーティン化による組織運営の最適化・効率化は業務運営上必要なるものであろう。組織としての行動が全くルーティン化されていない状態というのは、ある意味非効率の極みとも言える。もちろんクリエイティブな仕事やホワイトカラーのような仕事で自由度が高くなるほどルーティン化は難しくなるわけだが、なるべくそういった中でもタスクを細分化して形式知化し、それをルーティンに落とし込むことを進めていくことで、組織の生産性が上がっていくことであろう。


第十七章 ダイナミックケイパビリティ

(あまりまとめるような話が無かったので略)

 

第3部

第十八章 リーダーシップの理論

概要

リーダーシップ理論は以下のような変遷を辿っている。

1.リーダーの個性の理論

リーダーたりうる人は他の人と比べてユニークな資質や人格がある、というリーダーの個性に着目した理論である。求心力、社会性、自身、支配力等々の特性からリーダーの個性を研究する内容となる。

2.リーダーの行動の理論

個性ではなく「行動」そのものに着目する理論である。リーダーごとに部下に対する行動スタイルは異なり、それが組織としてのパフォーマンスに影響するという内容である。

3:コンティンジェンシー理論

リーダーの個性・行動の有効性はその時の状況や条件によるという理論である。ただし、その状況・条件の種類が煩雑となり、普遍的な理論へと昇華ができていなかった。

4:リーダー・メンバー・エクスチェンジ(LMX理論)

リーダーと部下の心理的な交換・契約関係に着目した理論である。それまでの理論は、ある個性・行動様式をもつリーダーはどの部下に対しても同じような振る舞いをすることが前提となっているが、現実はそうではない。誰が部下かによって同じリーダーであっても部下に対する接し方は変わるはずである。そのため、LMX理論理論では暗黙の交換・契約関係として捉える。リーダーは部下に一定の働きを期待し、部下はリーダーに対してその評価を求める。これがうまく回り、部下が期待以上のパフォーマンスを出すとリーダーはそれを評価し適切な報酬を与える、そして部下はその報酬に満足しより一層頑張るようになる、というわけである。もちろんこれが逆に回って負の連鎖になってしまうこともあるであろう。つまり、これは「えこひいき」を説明する理論となる。特定の人物だけだと悪い意味でのえこひいきとなってしまうが、これを部下全員に対して行えれば質の高い組織となっていくであろう。

5:トランザクショナル・リーダーシップ(TSL)とトランスフォーメーショナル・リーダーシップ(TFL)

TSLとは部下に対してアメとムチを使い分ける、管理型のリーダーシップである。状況に応じた報酬を与え、部下が成果を上げている限りは口出しをしない、という関係性で、LMX理論における正のフィードバックが働いている状況と同様であろう。TFLはカリスマ性や知的刺激、個人重視によって組織を高める。つまり、「ビジョンを掲げて、部下を啓蒙し、自律を促す」ということである。今後はTFL型のリーダーシップが求められると言われている。というのも、物質的な豊かさが満たされ、精神的な豊かさを求められるようになってきたことや、ビジネスの不確実性が高まったことで企業としてのビジョンやパーパスの重要性が高まっているためである。

6:シェアードリーダーシップ

従来的なリーダーシップは1人のリーダーと複数人の部下という垂直構造であったが、シェアードリーダーシップは状況に応じてそれぞれのメンバーがリーダーシップを発揮するという水平構造となる。これによりチームとしての高い成果が期待できると言われている。

自分の考え

対人関係である以上、リーダーが部下に対してすべて平等に接するということは現実的にはできず、部下からすればいかに評価してくれる上司につけるか、つまりひいきしてもらうかが重要であろう。これはいわゆる上司と部下の相性というところも関係しているかもしれない。基本的に有能なメンバーであればどんな上司であれひいきしてもらえるだろうが、癖が強かったり、強みの方向性が組織と合っていなかったりすると、適切な評価を上司から貰えず、結果本人のパフォーマンスも落ちていくという悪循環を招くこともあるであろう。

また、シェアードリーダーシップのように個々人が所々でリーダーシップを発揮していく組織は大規模プロジェクトにおけるツリー型構造の組織で必要となると思われる。つまり、トップとなるPMがいて、その下に各担当者範囲となる小規模組織がぶら下がっているような場合、その小規模組織それぞれに対してリーダーシップをとる人材が必要であろう。こうすることで、小規模組織単位が自律した組織として稼働し、それをPMがまとめあげるという理想的な組織運営ができる。プロジェクト経験が浅い企業・組織だと、このようなプロジェクト運営における体制の重要性の理解が弱く、度々プロジェクトが崩壊してしまうのである。

第十九章 モチベーションの理論

概要

モチベーションには外発的動機と内発的動機がある。前者は報酬や昇進といった外部からの影響によるもので、後者は楽しみ・やりがいといった内面から湧き出るものである。以下のような理論の変遷がある。

1:ニーズ理論

人には根源的な欲求がありそれがモチベーションに繋がるという理論である。マズローの欲求五段階説などである。

2:職務特性理論

仕事において、役に立つとか他社に影響を与えるとか、適切なフィードバックを受けられるといった、仕事上で得られる利得を内発的動機に紐付ける理論である。つまり、逆を言えばこういった利得が得られるような仕事・職務にしていくことでモチベーションを高めていける、ということである。

3:期待理論

誘意性×期待値(確率)が高いほど行動のコミットメントが高いという理論である。誘意性は要は見返りであり、期待はその見返りがどれほど見込めるかの確率である。つまり、能力給のように「自分の成果が見返りに直結する」という給与体系であればモチベーションは高まるということである。逆に完全固定給であれば「どんなに頑張っても変わらない」という状態なのでモチベーションは下がるであろう。

4:ゴール設定理論

期待理論を前提に、ゴールの設定をモチベーションの基礎に送り論である。人は具体的で、より困難・チャレンジングなゴールを設定するほどモチベーションを高めるという命題と、それに対する明確なフィードバックがある時によりモチベーションを高める、という命題に基づく。

5:社会認知理論

ゴール設定理論を前提に、さらに自己効力感によりモチベーションを高めるという理論である。自己効力感は以下により影響されるとする。①過去の自分の行動成果の認知、②代理経験(あの人ができるのなら自分もできるはずだ、という状態)③社会的説得(君ならできると言われている状況)④生理状態(心身の状況)

6:プロソーシャル・モチベーション(PSM)

他社視点のモチベーションである。PSMが高い人は関心が自分だけではなく他者にも向いている。顧客視点に立つ、部下の視点に立つ、といったことであり、他人に貢献することにもモチベーションを見出すことを指す。リクルート社では「自分は何をしたいのか」という内発的動機を徹底的に追求するとともに、顧客視点に乗り移ることで、顧客のニーズを捉えそれを解消することを徹底化する。このように内発的動機とPSMを組み合わせることで相乗効果が期待できると考えられている。

自分の考え

外発的動機を追求すると、どうしても給料を引き上げるということになってしまう。これをどんどん引き上げて行くのはコスト面で逼迫するのはもちろんのこと、短期的・一時的なモチベーション向上にしかならないし、最悪の場合、不正なことをしても高い利益を上げればよい、というような思考に陥ってしまう可能性がある。そのため、内発的動機をいかに引き上げていくかということが組織運営において重要となるであろう。特にPSMのように他人視点に立った上で他人の満足度を上げていくことが浸透していけば、それはビジネス上win-winの関係を追求することに繋げられると考えられる。これにより、単に自社内部でのモチベーション向上だけではなく、相手方との信頼・関係性向上にも寄与していくことになるだろう。

第二十章 認知バイアスの理論

概要

組織レベルにおける認知バイアスにおいて、社会分類理論がある。これは組織の中で人が他者を無意識にグループ分けするものであり、例えば自分の周りに100人の人がいる時、ひとりひとりを正確に把握するのは現実的に不可能なため、特定の情報を元にグルーピングして認知することである。このような場合においては昨今流行りのダイバーシティ経営を失敗に導くリスクを孕んでいる。

ダイバーシティ経営においては、タスク型とデモグラフィー型の2つ型があり、タスク型の多様性は組織にプラスの効果を生み出すがデモグラフィー型の多様性は組織にマイナスの効果を生み出すこともあると考えられる。タスク型というのは具体的に言うと、能力や経験、知見などについて多様な人材が集まることで、デモグラフィー型は国籍や人種、性別といった目に見えやすい属性で多様な人材が集まることである。

タスク型のダイバーシティは多様な経験・知見が集まることで知の探索につながり、それが結果的に組織パフォーマンスへと繋がっていく。他方で、デモグラフィー型については、社会分類理論によるバイアスにより対立構造を生んでしまいやすい。例えば男性・女性、日本人・外国人のように分類し、両者間で軋轢が生まれてしまう可能性がある。特にそれまで日本人しかいなかったグループに外国人が来たり、男性しかいなかった組織に女性が入ってきたり、といった場合にこのバイアスが助長されてしまうであろう。

つまり、本来的にはタスク型のダイバーシティを達成するための1つの手段としてデモグラフィー型のダイバーシティを受け入れるべきなのである。そして社会分類理論によるバイアスが発生しないように十分に注意をしていかなければならない。Googleですらこのバイアスを無くすために徹底的に研修や教育によりバイアスを排除する試みを行っている。

自分の考え

昨今、ダイバーシティインクルージョンが様々な企業において叫ばれている。もちろんそれは倫理的な意味で、公平性を保ち、社会的弱者を救い、人種や国籍や性別を問わずにチャンスを与えていくということであり、それはそれで大事な価値観ではあるが、本来企業は利潤を追求する組織であり慈善事業をすることは目的ではないため、タスク型のダイバーシティにつなげて知の探索を行えることを目標に据えないと、結果的に組織内の不和を発生させ、パフォーマンスの定価へと繋がってしまうであろう。

特に昨今は変化が激しいVUCAの時代と言われている中では、多様な考えや経験をもった人材を確保し、企業として変化に対して柔軟に対応できる体制が必要となっていく。そういった中ではダイバーシティに富んだ人材確保が必要となるであろう。それと伴にアンコンシャスバイアスを排除し、多様性を生かした組織づくりができるような工夫を凝らしていかねばならないのである。

第二十一章 意思決定の理論

概要

プロスペクト理論

①同程度の損失と利得がある場合、人は利得よりも損失の方が強く認識する。つまり、100万円を損するのと、100万円得する事象があった場合、金額は同じだが100万円損する方が効用はマイナス方向に大きいということである。

②人は追加的な利得より追加的な損失のほうが重く受け止める。つまり、微分したときの傾きは損失のほうが大きいということ、それだけ人は損失を避けたがるということである。

③大きな利得を得るほど追加的な伸び幅は減少し、大きな損失を被るほど追加的な損失の減少幅は減少する。つまり、グラフが逓減の形状をしており、2回微分が負ということであり、例えば所持金0円の人は100万円をもらったらかなり嬉しいだろうが、1億持っている人は100万もらってもそこまでは嬉しくならない、ということである。損についても同じことが言える。

企業においてはこのプロスペクト理論があることで適切な損切りができないと言われている。「事業に失敗して損失を出しても、多少の追加損失なら仕方が無いからさらに投資して挽回しよう」という状況であり、ギャンブルの借りをギャンブルで返すような状況である。

・直感の重要性

意思決定を行う際は、基本的に時間をかけて吟味した上で決定を下すべきであるが、ときには直感の方が優れた決断となることがある。人は意思決定をする際に、自分の意思決定が今後どのような影響が与えられるかを予測している。当然予測の精度が高いほど優れた意思決定となる。ここで、時間をかけて意思決定をするほど、過去の経験や知見に基づいた予測が入り込んでくるであろうが、必ずしもそれは予測として使えるものとは限らず、特に昨今の不確実性が高い状況下ではかえってノイズになる可能性がある。その結果、直感のほうが正しい意思決定となる可能性が出てくるというわけである。

例えばエンジェル投資のように、海の物とも山の物ともつかぬような投資対象がある場合には、もはや厳密な計算をするよりも直感を信じることが多大な成果を生み出すことがある。ソフトバンク孫正義氏がアリババのジャックマー氏に投資したときには事業計画も見ずに、5分で直感的に投資を決めたと言われている。

自分の考え

適切な損切りというのは簡単なようで難しい。単に数値だけの世界で考えられるのであれば、損切りも幾分楽にできるであろうが、そこには現場で働いている人いたり、それまで築き上げてきた他者との信頼関係があり、それらも含めて捨てることになるわけである。そのため、事業の撤退というのは単に金額の数値以上にコストがかかる決断となる。後から振り返れば「あの時さっさと手を引いていれば…」と言えるものだが、その当時に対応していた当事者においてはそう簡単な問題ではないはずだ。しかし、そういった当事者を擁護しても、今後このような損切りできずにジリ貧になる事象が増えていってしまう。国産ジェット機MRJなどの失敗を糧にして同じ轍を踏まないよう歴史から学んでいく必要がある。

また、意思決定における直感は間違いなく重要であろう。先述のような損切りをしないといけないような場面では、直感としては間違いなく「撤退した方がいい」という判断を下すはずである。そこから、関係各位の影響だとか世間体だとかそういうことを考え始めることで守りに入ってしまい、本来やるべき損切りができなくなってしまうと考える。損しないように守りに入った結果、大損となるという皮肉な状況を生み出してしまうのだ。

第二十二章 感情の理論

概要

人は勘定の生き物である以上、認知理論的に正しい意思決定をしても、感情に大きく左右される。「言っていることはわかるが、態度が気に食わない」というように、必ずしも正論を言えば万事解決というわけではない。組織を運営する上ではポジティブな感情が効果的で、「自分はできる」という自己効力感を高めることに繋げられる。これにより部下のパフォーマンスが上がれば結果的に上司・組織としてもパフォーマンス向上へとつながるであろう。しかし、ポジティブ感情は同時に満足度も高めてしまい、緩んだ組織へと繋がってしまう。そのため、適宜ネガティブ感情も用いて危機感を高め、サーチ(知の探索・知の深化)を促すことが必要となる。

一般的にポジティブ感情を用いれば新しいアイディアやチャレンジを促し知の探索へと繋がり、他方でネガティブ感情を用いれば萎縮してしまい、新しいアイディアなどを出すよりは目先の知見を深めてとにかく非がないように、という知の深化へと繋がっていく。このようにアメとムチを使い分けて組織をコントロールしていくことが求められるであろう。

また、感情は伝播するため、意図的に感情ディスプレイすることが求められる。例えば接客現場では従業員に笑顔が求められたり、スポーツコーチの中にはわざと強く怒ってシメることもある。感情労働理論において感情ディスプレイにおいては2つ分けて捉えており、1つは「サーフェスア・クティング」で、外にディスプレイする感情と自分の本心にギャップを持ったまま感情を表現することである。例えば顧客クレームを受けて本心は嫌々ながらも本人は笑顔で接するような場合である。もう1つは「ディープアクティング」で、「自分の意識や注意の方向を変化させることで、感情そのものを自分が表現したい方向に変化させ、そのまま自然に表現する」ということである。例えば、クレームを受けた際に一旦「怒っているのはこういうことに理由があるのではないだろうか?」と冷めた頭で考えなおし、その結果「初めての操作で不安を抱えていた」ということが分かれば、その不安に対して「同情」する等で自然に応対ができ、顧客の不満も解消できるということである。つまり、このような状況ではむやみに「怒られたから謝る」をしても意味がないどころか客からすれば「謝られても自分の不安は解決しないんだけど!」とかえって不信感を募ってしまうかもしれないであろう。

自分の考え

アメとムチは今後の組織運営においてよりうまい使い分けが求められるであろう。パワハラに対する風当たりが強くなり、アメ偏重の指導が行き渡る中で、どうやってムチを発揮して組織を統制するかがリーダーとして求められる。もちろんパワハラは良くないのでそれを無くそうとする世の動きは大変喜ばしいことだが、甘やかすことが正解というわけではない。伸び伸びと各々が自分の力を発揮する一方、客観的に間違っていること、正すべきことは適切に指摘をし、きちんとルール通りに動かなければ組織は成り立たない。そういった中で感情面でネガティブ感情をうまく演技することもリーダーシップとして求められると考える。

また、顧客のクレーム対応においては、「その顧客は何に対して怒っているのか」を適切に捉えないといけない。誤った解釈をして誤った方向での対応・謝罪をしてもかえって火に油を注ぐ結果となってしまう。顧客側も好きで闇雲に怒っているのではなく、そこには必ず思いや要望がある。むしろ怒るからこそ思いや要望は強いものであるため、これを適切に対応できれば顧客からの信頼を大きく獲得できると考えられる。クレーム対応から信頼を構築できるという話がよくあるのはこういうためであろう。このように目先のクレームに怖じけず、適切に要望把握するにはディープアクティングを行い、引いた目で顧客の状況を把握し顧客に寄り添うことが重要となる。

第二十三章 センスメイキング理論

概要

センスメイキングは日本語で言う納得感や腹落ち感およびその納得感や腹落ち感にいたるプロセス全般を指す。前提としては認識的相対主義に立ち、唯一無二の正解があるというよりは人それぞれでそれぞれ背景や経験によって同じものでも捉え方は異なる、という立場を取る。そうなるとこの世は多義的と解釈ができ、そのような状況下では変動性が高い、つまり予測ができない、混乱的、新しい、といった状態で、絶対的な見解を1つに絞り込んで導き出すのは難しい。

そういった中でリーダーとしては多義的な解釈がはびこる環境下において、組織の足並みを揃えていくことが必要となる。特に近年ではストーリー性が重要視されており、例えば日本電産の守永氏は「近い将来にドローンが進化し、自家用ドローンが当たり前になり、ドローンで通勤する時代が来る、ということを語っている。これによりドローン市場はますます成長しそれにあわせて同社のモーター事業も成長していく」、というストーリーを語ることで、ワクワク感を生み出し、投資家からのマネーを呼びこみ、組織としての目指す方向性を決めていく。

また、絵に描いた餅とならぬよう行動に移していくプロセスが重要となる。なんとなくの方向性で動き出して知の探索を行い、適宜軌道修正をすることでセンスメイキングを深めていく。例えば当初はドローン市場が未知的でうまく行かなくとも、軌道修正してそれが成長していけば「世界的にドローンが普及して市場成長の波に乗れた」と納得してくのである。つまり、優れたリーダーはある意味センスメイキングを通じて未来を創り出していくという事がいえるであろう。

自分の考え

センスメイキングを生み出す上でのストーリー性は絵空事にもなりかねない。本書上は成功例を引き合いに記載しているので、至極全うに読めてしまうが、現実的にはストーリーを描くというのはかなり難しいと考える。突拍子も無いストーリーだと非現実的になってしまい、センスメイキングの度合いが下がってしまう。かといってあまりに現実的すぎる愚直なストーリーだと未来を創り出せず、企業成長としては限られたものとなるであろう。

イーロン・マスクのように「人類を火星に移住する」という超大胆なストーリーを引っ提げてセンスメイキングできるのはイーロン・マスクのカリスマ性たるゆえんだろう。

第4部

第二十四章 エンベデットネス理論

概要

古典経済学においては、市場メカニズムにおいて情報や取引の媒介はコストが0であることを前提とする。それはつまり、日本において日本国内の会社と取引するのと、ブラジルの会社と取引するのは同じ商品であればどちらも同じということになる。当然現実はそんな事無く、外国相手に商売をしようとすると物理的な距離や時差といった違いや、商習慣や人脈など様々な障壁があるはずである。こういったことを乗り越えて商売をしていくにあたり、現地とつながりの強い商社と関係を持つ、直接現地に赴いて人脈を形成する、といった人と人との関係性のネットワークを構築していく必要がある。

そのような中で繋がりには3段階あるとするのがエンベデッドネス理論である。1つはアームス・レングスなつながりで、経済学における市場取引に近い関係である。合理的で計算的で利己的な取引で、自身の利得を優先し、交渉が合わなければ別の取引先に代替するという、古典経済学に近い発想である。それと対極をなすのがヒエラルキー上の繋がりで、上司と部下のような密な関係である。ここにおいては、人間関係や利害関係に基づいた取引となり、かならずしも経済合理性が最大化されることは優先されない。その間に位置するのが「埋め込まれた繋がり」であり、人脈や信頼などで構築される繋がりとなる。昨今のインターネットおよびSNSの普及や、グローバル化など繋がりの方法は変わっているものの、そこにある本質は変わらないであろう。

自分の考え

あまりピンと来る内容ではなかったので省略。本章は25章以降に向けた序論という理解でいる。

第二十五章 弱い繋がりの強さ理論

概要

弱い繋がりの強み、これをSWT(strength of weak ties)という。そもそもの定義としては、接触回数が多い、一緒にいる時間が多い、情報交換の頻度が高い、といった状態を強い繋がりとし、その逆が弱い繋がりである。これを聞くと強いつながりのほうが良さそうにみえるが、必ずしもそうではない。弱い繋がりが今の日本に求められており、こによる変化やイノベーションを促進するにあたり決定的な要素となるのである。

A,B,Cの三人がいる時、AとC、BとCは繋がりがあるが、AとBには繋がりが無いとする。この時Cはブリッジという役割になり、要は仲介役となる。このようなブリッジを介すような繋がりであれば弱い繋がりと言えるであろう。このようにブリッジを介したネットワークを大規模に形成することで、情報の伝播を効率的かつ大規模にしていくのである。

具体的な例でいうと、リファラル採用があるであろう。ある企業N社と、そこで働く従業員T、そしてその友人Kがいた時に、N社と従業員Tおよび従業員Tと友人Kは強い繋がりがあると言えるが、N社と友人Kは繋がりが無い状態である。これをリファラル採用の形で従業員Tが結びつけることで、N社として取りたい人材を効率的に採用できることとなる。

また、このような弱い繋がりで伝播していくことはイノベーションへの起点になるであろう。人間の認知には限界があるため、その認知の範囲内では新しい知を生み出すのも限界がある。そこで知の探索として弱い繋がりを活用することで、イノベーションに必要なアイディアや人材を募ることが仕組みとしてできるようになるだろう。

なお、ここまで弱い繋がりについての利点を述べたが、強い繋がりについても当然利点がある。このようにして生み出したイノベーションをより強化していく、つまり知の深化をするには強い繋がりを持って、その技術や知見を磨いていくことで、その企業のコアコンピタンスとして昇華していくであろう。

日本においては終身雇用制や社員は家族といった意識が従来あったため、いわゆる強い繋がりの組織が多く、結果社外との繋がりや広い人脈形成が仕組みとしてし辛い状況であった。今後の日本のイノベーションを追求するには、弱い繋がりもうまく活用していくことが重要であろう。

自分の考え

昨今はインターネットを通じてさまざまな弱い繋がりを気軽に作れる時代となったであろう。FacebookツイッターのようなSNS、オンラインサロンやオンライン勉強会等々、手段はどうであれ、沖縄から北海道までスマートフォン1つあれば関わりが持てるようになった。もちろんこれによる弊害もあるであろうが、弱い繋がりの形成という意味ではこういったサービスもうまく活用することで貢献できることであろう。

ただし、事業に関する内容は企業秘密も多く、SNSのようにプライベートな繋がりを主体とする場合にはあまり役立たないかもしれない。そういった場合では異業種交流会や異業種研修などを通じて繋がりを広めていく方法もあるだろう。

第二十六章 ストラクチャル・ホール理論

概要

弱い繋がりにおいて、間を取り持つブリッヂの存在がいた。これに着目するのがストラクチャル・ホール理論(SH理論)である。先程の「A,B,Cの三人がいる時、AとC、BとCは繋がりがあるが、AとBには繋がりが無いとする。」の状況下において、Cは仲介役、つまりブローカーという役割になるが、この三人において一番情報優位であり、なおかつA-B間の情報コントロールができる立場であるため、必然的に希少性が高くなる。AとBには構造的に隙間(Hole)があるため、ストラクチャル・ホール理論ということになるのである。

SH理論はある意味商売における基本とも言えるであろう。メーカーと小売をつなぐ商社の存在がまさにブローカーである。歴史をたどればシルクロードにて東洋と西洋をつないでいった商人や、大航海時代に世界中を旅して輸出入してきた東インド会社もそうであろう。他方、ブローカーはその優位性が保てていないと商売が成立しない。先述の例ではAとBが直接繋がってしまった場合は、わざわざCを介すだけ無駄になる。そのためめブローカーは常に新しいSHを探して関係性を築いていく必要があるだろう。

このような特性は個人としても求められてくる。つまり、1つの分野だけに詳しいのではなく、いくつかの分野にまたがって繋がりを持ち、知見があるというH型人材である。こういった人材こそが、広い見識と深い洞察を持つためイノベーションを生み出す原動力となっていくだろう。

自分の考え

実務においても、窓口となる役割や様々な部署からの板挟みに合う立場にいると、調整に苦労したり、役割分担が曖昧なタスクが降ってきたりと損な立場を強いられることが多いものの、逆を言えばブローカー的な立場ともなれるため、各関係者との関係を把握し、情報をコントロールすればむしろ優位な立場で仕事を進めることができるようになるだろう。

特に情報という意味ではそこにさまざまな情報が集まってくるため、なんでも知っているナレッジセンターとしての役割にも昇華していくと思われる。この知見を活かして新しいサービスを生み出したり、組織をコントロールしたり、メンバを教育したり、といった活用ができる。そのため、損な立場と悲観せず、この状況をうまくポジティブに活かしていくことがリーダーとして求められるスキルとなるだろう。

第二十七章 ソーシャル・キャピタル理論

概要

ソーシャル・キャピタルは直訳すると社会資本となるが、ここでは、社会における相互の情報交換や影響の伝播のことを指す。要はネットワークである。これまで、弱い繋がりやブローカーの優位性について記述をしてきた。ここでは、ボンディング型のソーシャル・キャピタルについて記載をする。つまり、強く閉じた繋がりのことである。ここにおいて必要な要素が、信頼、ノーム、相互監視と制裁という三つの要素となる。

信頼はその名の通りで、相手が自分の期待を裏切るような行動は取らないということをお互いが認知している状態である。ノームは暗黙の了解や行動規範で、ルールや法律などに明文化されずとも「こうすべき」という了解が築かれている状況である。総合監視と制裁はフリーライドが発生しないよう相互で監視し必要に応じて制裁を加えることである。例えば日本で言う村八分である。

このようなボンディング型のソーシャル・キャピタルの例としては、ご近所付き合いや専門家の集まりだったり、マフィアやヤクザのようなものがある。ご近所付き合いにおいては、顔見知りの近所の人との信頼関係があり、他方でルールや法律などでいちいち縛らずとも社会を運営しているわけである。マフィアやヤクザについては、違法なことをやっているからこそ、法律での結びつきができず、信頼が最も重要な規範となる。また、裏切り者が出ないよう厳格な相互監視や制裁が必要となるであろう。

ボンディング型におけるメリット・デメリットは弱い繋がりの逆と言えるであろう。つまり、ボンディング型はそのまま強い繋がりのことでもあるので、密な情報連携や、信頼を前提にした高度な取引といったことが可能となる。どちらがいい悪いではなくその特徴を捉えてどうバランスを取るか、であろう。SNSの普及で弱い繋がりの形成がしやすくなった一方で、そこから強い繋がりを作る場合にはこのボンディング型へ向かうよう仕向ける必要がある。逆に極端にボンディング型すぎる組織はこれを解消して弱い繋がりでの広がりを追求していく必要があるのである。

自分の考え

ご近所付き合いやマフィアのようなレベルでの強い繋がりをそのまま企業に持ち込むことは無いにせよ、ドライな関係になりすぎるとその組織を統制するのはルールが必要となり、マニュアル人間が生まれ、イノベーティブな組織になりづらいと考える。弱い繋がりで人脈は広げる一方で、組織としては一定のウェットさが無いと、単に情報のかき集めとなり、イノベーティブなアイディアへの昇華ができないのではないだろうか?

自社や組織の課題・弱みを的確に把握し、組織内外のネットワークどの程度強固に形成していくか、その切り口として当該理論を検討のフックとするのが良いのだろうか。

第二十八章 社会学ベースの制度理論

概要

経済学では人々が合理的に行動することを前提としているが、社会学においては人は必ずしも合理的な意思決定をするとは限らないという前提に立つ。これにより「社会的な正当性」が生まれ、企業が必ずしも利潤や経営資源獲得のためではなく社会的な正当性を動機に行動をする。例えばダイバーシティ経営において、「他社もやっているから」「政府が推進しているから」という理由で推し進めるようなことである。このような同質化(アイソモーフィズム)を生み出すには大きく以下の3つの要因がある。

1.強制的圧力

政策・法制度によってもたらされる圧力である。ダイバーシティの推進はまさにその例であろう。政府が推進しているからそれに乗っているという状態であり、その他で言えばSDGsの推進なども同じような側面があるだろう。

2.模倣的圧力

みんながやっているから自分もやるという状態である。日本メーカーでの過剰とも言える高品質な取り組みやそれによるガラパゴス化も模倣的圧力によるものと言える。

3.規範的圧力

この職業はこうでないといけないという圧力である。銀行員ならスーツを着ないといけない、逆にスタートアップ企業はラフな服装であるべき、というような類である。

このように同質化によってその業界内での「常識」が生まれてくる。しかし、他の業界・市場となると非常識となってしまう。特に多国籍企業において海外進出するには商習慣やビジネス制度などの常識が異なることでギャップが生まれてしまう。例えばインドやアフリカなどの新興市場では良くも悪くも賄賂が当たり前に蔓延っている。他方、日本では当然ご法度である。このような状況下で日本企業としてはコンプライアンスを守って賄賂をしないようにしても、現地側としては賄賂を駆使しないと競争に入り込む余地すら生まれないのである。

そのため、立法・行政・司法に働きかける「非市場戦略」が重要となっていく。ロビイングやCSR活動などで政府と関係性を構築し、自社に有利な方向に持っていくという戦略である。例えばウーバーのようなシェアリングエコノミー企業はある意味白タク行為を助長することになることになるが、同社は政府部門へ働きかけるため250人のロビイストと契約をしている。

自分の考え

昨今のスタートアップ企業で最も非市場戦略を実行しているのはシェアリング型の電動キックボードサービスを提供しているLUUPであろう。電動キックボードを街中に走らせるのはどう考えても危険であり、これをやろうとすると速攻で行政NGを食らってしまいそうなものである。実際自分も試しにLUUPを利用したことがあるが、ヘルメットもせず、安定性も高くないキックボードの運転は不安感を募るばかりであった。その割には自転車ほどスピードが出るわけでもないので、車が走らない私道で遊びとして乗る分には良いが、交通手段として使うには正直心もとないという印象であった。そんなLUUPは爆発的に広まっており、レジャー感覚で乗る若者はもちろん、通勤中のサラリーマンでもLUUPを利用している人を見るようになった。

この普及に当たっては相当なロビイング活動をしたはずで、堅く・守りに徹する国日本においてどんどん法整備を進めるために介入していき、見事にサービスを作り上げたというのは、今後のスタートアップ企業としても見習うべき戦略なのかもしれない。特にスタートアップ分野は法整備が進んでない隙間産業を狙うため、自分たちに不利な改正がされるとビジネスが閉ざされてしまうし、逆に有利に改正されるとLUUPのように爆発的な拡大を期待できるであろう。

第二十九章 資源依存理論

概要

資源依存理論(Resource Dependence Theory)は企業がさまざまな相対的な力関係について述べる理論である。自動車メーカーは部品メーカーがいないと成り立たないように、この場合自動車メーカーは部品メーカーに依存しているわけである。部品や材料に加え、技術や人材も外部調達する以上リソースとなる。また、製品・サービスを売る先も金銭を取得するためのリソースと言える。これが特定の顧客だけに絞られてしまうのも依存と言えるであろう。

このような状況では依存度が高くなればなるほど相手ぼパワーが相対的に強くなり、その結果交渉において相手から自社にとって不利な条件を突きつけるような圧力をかけることとなる。特に日本では99%が中小企業であり、その多くは大企業や中堅企業の下請けをしている。このパワーバランスにおいては下請けの立場は弱く、元請けからの圧力に苦しむこととなる。

これに対する解消方法として最も単純な手段は、特定企業からの依存度を引き下げるために新たなベンダーの開拓や新規顧客の開拓である。また、あえて外部からの圧力となる相手を自分側に引き入れるという戦略もある。例えば相手企業の役員を自社の社外取締役として受け入れて、味方とすることで相対的な弱さを和らげるのである。

自分の考え

ファイブフォースにおける売り手の交渉力と買い手の交渉力の話に通ずるかと思う。そのため、特にここで追記とするような内容は無い。

第三十章 組織エコロジー理論

概要

組織エコロジー理論は生態学として組織を捉える。前提としては以下3つがある。

1.企業の本質は変化しない

組織エコロジー理論ではマクロ的に業界全体を見ていく。そこにおいては個別企業の細かな変化は重視せず、太宗として「一度生まれた企業は生涯その本質は大きくは変化しない」と考える。企業が変化できない理由としては2つあり、1つは内部要因として人や組織の認知には限界があり大きく変わるにも限度があるためであり、もう1つは二十八章制度理論で述べたような正当性により、その業界での一定のやり方が常識化し変えられなくなるためである。

2.自然選択のメカニズム

ではなぜこの世にはこれほど多様な企業があるかというと、それは「企業が変化するから」ではなく「多様な企業が生まれるから」、とする。つまりダーウィニズムを企業にも適合させるのである。突如おこる遺伝子変異により多様な生物が生まれそれに適合する生物が生き残る自然選択である。

3.超長期視点

数十年~百年といった単位で現象を捉える。

密度依存理論:

個体群生態学においては、生育領域内の個体数は一定の密度に収束すると考えられている。密度が多くなれば餌や棲家の奪い合いとなり個体数増加にブレーキがかかるためである。企業も同様に業界全体の企業密度が高くなると、やがて顧客や資源の奪い合いとなり参入障壁が高くなり、密度が収束していく。密度が高まる過程としてはレジティマシー(社会的な正当性)が重要となる。例えばレシピサイトのクックパッドは1998年に創業し、2000年代前半では100万人程度の利用者しかいなかったものの、2016年には6300万人にも達した。これはネットワーク速度とスマートフォンの普及により、手軽に料理写真を投稿し、見れるようになったというレジティマシーを獲得したためである。

捕食範囲の理論:

他生物との棲み分けをするために、適した捕食範囲という考えがある。特に重要となるのが「ゼネラリスト」「スペシャリスト」の観点である。雑食性で何でも食べる生物と、特定のエサしか食べない生物がいる。このような場合一般的にゼネラリストのほうが獲得競争を行う。肉なら何でも捕食するライオンは、チーターやハイエナと競合する。しかし、アリクイやコアラは他の生物と競合することは基本的に無い。企業においても多くの顧客をターゲットとするマス市場と特定顧客だけに絞るニッチ市場があるが、前者はスケールメリットを活かして安く汎用的な商品を提供できるゼネラリストである大企業の対象となり、後者は独自の技術や独創的なアイディアを活かすスペシャリストである中小企業の対象となるであろう。

自分の考え

密度理論の話はプロダクト・ライフサイクルに通ずるし、捕食範囲の理論は、リーダー戦略、フォロワー戦略等々で企業を分類するコトラーの競争地位戦略に通ずるであろう。つまり、最終的な企業としての理論は既出のものとなるが、そこに至る分析アプローチとして生態学との親和性を見出すのが面白いポイントなのであろう。

特に2020年に世界的に流行した新型コロナウイルスにおいて、そこで生き残れる企業というのは、「変化に強い企業」と言われた。つまり、従前は独自の技術があるとか、太い顧客がいるということが強い企業の象徴のようでもあったが、そうではなく多様性に富み、大きな社会変化が起きてもそれに柔軟に対応できる企業こそが長期的に生き残る企業なのである。恐竜が絶滅したように、単に力があってもそれに頼りすぎると環境が変わった時に一気に負け試合となってしまう。そういった意味でもこの変化に強い企業の考え方はダーウィニズムから着想を得られるであろう。

第三十一章 エコロジーベースの進化論

概要

前章はマクロ的な理論であったが、本章はミクロ的な視点に基づく理論となる。「多様化と競争による自然淘汰」によるものである。この理論の基礎となるのが、多様化・選択・維持・苦戦のサイクルである。

多様化:生態系においては様々な生物種が生まれることとなる。

選択:様々な多様性をもった生物が生まれる中ではその自然環境に最もフィットしたものが生き残る。いわゆる自然淘汰である。

維持:自然淘汰され生き残った生物は生存競争を勝ち取り子孫を残す。

苦闘:やがて環境変化により生き残った生物も淘汰され、異なる様相を呈する生物が生き残っていく。

これを元に企業内の情報処理プロセスが企業の戦略形成に影響を与える例を記載する。企業における情報獲得は人材によってもたらされるので、多様な人材を抱える企業は多様な知見が集まるであろう。これにより企業内情報としての多様性も生まれることとなる。そしてこれらの情報は経営層へと届く過程で選別・淘汰されていく。ここにおいては企業により選別プロセスは異なっていくであろうが、このような構造により淘汰された情報は同質化し、毎度同じような情報が経営陣に届きがちとなる。これはよくある「経営層には現場の悪い情報が届かない」状態も引きおこす。経営層へ情報伝達するプロセスにおいて悪い情報は選択・淘汰する過程で管理職層で握り潰されてしまうのである。これによってチャンドラーの「組織は戦略に従う」の逆で「戦略は組織に従う」という状態になるのである。

こういった状況を打破するために企業内の風通しを良くすることや、他企業との交流を深めるなど外部との人材交流が必要となるであろう。英国で合成染料技術が開発された時、産業界と学会の垣根が高かったことで開発された技術の普及が進まなかった。他方でドイツではオープンに業界と学界の交流が盛んに行われたことで、研究者は起業し産業界の技術者が研究に専念するなど、お互いにとって活性化が進むこととなった。

自分の考え

昨今において多様性が叫ばれる理由として、二十九章にも述べた変化に強い企業となるため、ということに加えて、本章のように選抜・淘汰プロセスの硬直化を防ぎ、組織交流や技術革新を促すため、ということもあるだろう。

第三十二章 レッドクイーン理論

概要

レッドクイーン理論は不思議の国のアリスから来ている。ウサギを追う狐、狐に捕まらないように逃げるウサギ、狐はウサギを追いかけるために足が速く進化し、ウサギは狐から逃げるために足が速く進化する。このようにして互いに競争した結果進化し合う過程をレッドクイーン効果という。企業においてもこの考え方を適用する。ある競争下に置かれた企業において、互いに切磋琢磨することで進化し続け、結果的に長期的に生き残っていくということである。それまでのSCP理論やRBV,ゲーム理論といった古典経済学においてはいかに完全競争から脱し、独占状態に近づくか、ということが重要視されていたが、ある意味これは逆を主張をしているということである。

このような切磋琢磨は一見良いことに見えるが、あくまでその枠内での進化にとどまってしまう。つまりガラパゴス化を産み、イノベーティブなプロダクトやサービスが生まれづらくなるのである。競争にさらされた結果、競争することが目的化してしまい、競争相手だけがベンチマークとなった結果、このようになるのである。

自分の考え

このようなガラパゴス化は日本でよくある話なので、耳が痛いところであろう。まさにガラケーがその代表例と言える。日本で各メーカーが切磋琢磨して携帯電話を改良していたところにiPhoneがやってきて、世界を席巻してしまったわけである。その後日本からスマートフォンの端末も出たりはしているものの、パッとせずに結果的に撤退している状況である。日本国内市場での競争を意識して進化していっても、ゲームチェンジが訪れた瞬間その進化は無駄とも言える状態に陥ってしまうのである。

これを回避するためにも、目先の利益や競争に囚われずに企業として未来を見据えていくことと、本当の意味での競合は何なのかを見定める必要があるだろう。JINSではメガネ屋を競合相手としていない。JINSにおいては世界中の人にメガネを掛けさせるというビジョンを持っており、そうすると目がいい人にもメガネをかけてもらうにはどうすればいいか?といった視点に立ち、市場調査やブランド開発に取り組めるのである。