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定率成長配当割引モデルとPBRとの関係

株価の理論価格の一つとしてある配当割引モデルのうち、企業が一定の成長率にて成長していくとことを前提とする定率成長配当割引モデルとPBRとの関係式を整理する。

 

前提知識

定率成長における配当割引モデルは以下の式で示される。

P_{0}=\dfrac{D_{1}}{k-g} \hspace{10mm} 0 < g < k \cdots (1) 

P_{0}理論株価D_{1}:初年度配当、k:割引率(株主要求収益率)、g:配当成長率

まずはこの式を導出する。

企業が成長率gで成長すると、2年目配当はもともとの1年目の配当に加えて、gで成長した分が加算されるため、以下のように示される。

D_{2}=D_{1}+gD_{1}=D_{1}(1+g)

 なので、これを永続的に考えれば、n年目の配当D_{n}について、一般的な複利計算のように以下のように表せられる。

D_{n}=D_{1}(1+g)^{(n-1)} 

 ここで、配当割引モデルにおける理論株価は、各年度における配当を現在価値に割り引いたものであるため、

 P_{0}=\dfrac {D_{1}}{(1+k)}+\dfrac {D_{2}}{(1+k)^2}+\dfrac {D_{3}}{(1+k)^3} \cdots \\ \hspace{5mm} = \dfrac {D_{1}}{(1+k)}+\dfrac {D_{1}(1+g)}{(1+k)^2}+\dfrac {D_{1}(1+g)^2}{(1+k)^3}+ \cdots

 これは等比数列の和となるため、両辺に公比である(1+g)/(1+k)を掛けたものを引いて整理すると、以下のようになる。

 P_{0}=\dfrac {D_{1}}{k-g}+ D_{1} \left ( \dfrac {1+g}{1+k} \right )^n

これについて、2つの前提を置く。1つはn→∞、つまり、永続的にその会社は存続してサスティナブル成長率のもと利益を出し続けるということ。もう1つはg < kであること、つまり 0 < \left ( \dfrac {1+g}{1+k} \right ) < 1となること。これにより、\lim_{n \to \infty}とすると、 \left ( \dfrac {1+g}{1+k} \right )^nは0へ発散するので、

P_{0}=\dfrac{D_{1}}{k-g} \hspace{10mm} 0 < g < k \cdots (1) 

一番最初に記載した(1)の式が導出される。

本題

(1)式のPを株価ではなく時価総額Dを1株あたりの配当ではなく配当総額とみなして、ROE自己資本B、配当性向dを用いて変形する。なお、成長率gはサスティナブル成長率として、g=ROE(1-d)が成り立つことを前提とする。

P=\dfrac{D}{k-g}=\dfrac {ROE \times B \times d}{k-ROE(1-d)} \cdots (2) 

∵D=当期純利益(=ROE \times B) \times 配当性向(d)

このため、株価収益率kROEと同値だった場合は、上記式のROEkに置き換えて、以下となる。

P=\dfrac {k \times B \times d}{k-k+kd}=B \\ \Leftrightarrow \dfrac{P}{B}=1  

すなわち、時価総額自己資本が成り立ち、PBR(株価純資産倍率)=1が導ける。
また、(2)式を以下のように変形する。

P=\dfrac {(k-ROE(1-d)) \times B - kB+ROE \times B}{k-ROE(1-d)} \\ \hspace{5mm} = B + \dfrac{B}{k-g}\times(ROE-k)  

テクニカルな式変形はそういうもんだと理解しておくとして、最終的な右辺のB \times (ROE-k)は残余利益を表し、それをk-gで割ることで、現在価値に割り引いていることを表している。すなわち配当割引モデルと残余利益モデルの等価性を示している。

 

※残余利益については以下の記事を参照。期首の株主資本簿価から毎年積み上がっていく残余利益を現在価値に割り引くことで株価(時価総額)が算出できる。

残余利益の考え方 - 一生旅行生活してえ 

なお、株価収益率を下回る、すなわちROE<kのときは右辺の第二項はマイナスとなるため、PBR(株価純資産倍率(=P/B))は1倍を下回る。当然逆であれば1倍を上回る。

補足

(2)の株価について、配当性向変化させたときの株価の上昇・下落は、ROEと株価収益率kの大小関係によって変わる。つまり、k<ROEなのかk>ROEなのかで変わるのだが、これはグラフで視覚的に理解したほうが良い。数式的に言えば、(2)の分母を展開したものについて、k<ROEだと\underline {k-ROE} + dROEの下線部が負になり、k>ROEだと正になり、ここがグラフの形に影響するところである。それを表したのが以下の通り。

f:id:s_tkmt:20200912212825p:plain

反比例の関数なので双曲線になるが、ここでは正の部分だけ考えれば十分であろう。横軸が配当性向、縦軸が価格だと思ってみてもらいたい。つまり、 k<ROEのときは配当性向を増やせば株価は下落し、k>ROEのときは配当性向を増やせば株価は上昇していく。そのため、配当性向の変化と株価の変化は、株価収益率とROEの大小関係に影響を受けるのである。

 また、配当割引モデルとPER(株価収益率)との関係は以下の通りで示される。

PER=\dfrac{株価}{EPS} \\ \hspace{10mm}=\dfrac{D}{k-g} \times \dfrac {1}{EPS} \\ \hspace{10mm} =\dfrac{EPS \times d}{k-g} \times \dfrac {1}{EPS} \\ \hspace{10mm} =\dfrac{d}{k-g}

∵D=一株あたり当期純利益(=EPS) \times 配当性向(d)

 

以上